(1)未来へ~アイヌ文化の担い手たち 札幌大学ウレシパクラブリーダー 葛野(くずの) 大喜(だいき)さん(22) 自分のルーツ、後世に 言葉から見えてくるアイヌの世界観

  • 未来へ~アイヌ文化の担い手たち, 特集
  • 2020年1月6日
祖父が残したノートを手に語る葛野さん

  新ひだか町静内東別にある自宅裏の古い別宅は、アイヌ伝統の儀式を行う場所だ。民族衣装を身にまとった父が神に祈りをささげる姿を見て育った。4歳の時に亡くなった祖父の葬儀もここで行われた。

   祖父の辰次郎さんはエカシ(長老)と呼ばれ、人々に慕われた。儀式の伝承者であり、口伝えで受け継がれてきたアイヌ語を日本語の文字で記録した先駆者。残したノートは100冊以上。それぞれに儀式などに使う言葉がびっしり書き込まれている。

   ノートを受け継いだ父の次雄さんも、アイヌ文化の伝承活動に熱心。「自分の家は特別ではない。民族として当たり前のことをやっている」。子どもの頃から父の活動に参加。生前の祖父の活躍を繰り返し耳にするうち「生き方がかっこいい」と思うようになり、儀式の作法も自然と身に付いていった。

   新ひだか町で生まれ育ち静内高校を卒業後、札幌大学に進学。アイヌと和人(アイヌ以外の日本人)の学生が共にアイヌの歴史、文化を学ぶ同大のウレシパクラブに入った。

   4年生になってからはクラブのリーダーを務め、毎年10月に開催されるウレシパフェスタなどで踊りや歌を含めた学習成果を披露。4月に白老町に開設予定の国立アイヌ民族博物館の展示エリアに使用する解説文のアイヌ語執筆にも協力してきた。

   進路を決めかねていた高校3年の時、トマト農家の父が離農。ビニールハウスを撤去後、更地になった農地を眺めながら「このまま(アイヌ民族の)葛野家がなくなってしまう」と感傷的になった。「自分のルーツであるアイヌについてもっと学び、後世に伝えたい」の思いを強め、アイヌ教育に力を入れる同大を選んだ。

   入学当初は「アイヌ語で満足に自己紹介もできず、儀式の作法は初めて知るものばかりだった」。言葉や儀式の作法に地域性があることも分かり、学問として体系的に学ぶ必要性を痛感した。辞書で単語を一つひとつ調べ、祖父と親交の深かった民俗学者の藤村久和さんに師事し、作法を習得。アイヌ語は日常会話レベルまで上達し、儀式を進行できるまでになった。

   祖父の残したノートを読み返すたび、新たな発見がある。人が亡くなったときの神への祈りの言葉は一つではなく、男性、女性、子どもでそれぞれ異なり、事故で亡くなった場合の言葉もある。「言葉からアイヌの世界観が見えてくる」。アイヌ語を追究していくことがアイヌの伝統を残すことにつながると、研究者を目指して大学院への進学準備に忙しい日々だ。

  (伊藤真史)

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   アイヌの人々が育んできた豊かな文化を実践、継承する地域ゆかりの若き担い手たちを紹介する。全6回。

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