国内で深刻さを増している児童虐待問題。今年も子どもの命が奪われる事案が全国各地で数多く起きており、6月には札幌市でも2歳女児が母親とその交際相手からの暴力で死亡する事件が発生。苫小牧市で虐待防止などの対応に当たる関係者の間に大きな衝撃が走った。
市が今年4月から10月末までの7カ月間で受けた虐待相談件数は延べ153件。前年同期と比べると3件ほど減ってはいるが、高止まりの水準は大きく変わらない。事案の内容についてはさまざまだが、実子や内縁の妻の子どもに暴力を振るって逮捕されるなどのケースは少なくないという。
市は虐待事案に対する体制強化に向けて4月、こども支援課内に市子ども家庭総合支援拠点を設置した。早期発見と重大化を防ぐための迅速な対応を目的に他の関係機関との連携を進めており、各職員が日々の業務でケースごとに力を注いでいる。
これまでは継続支援が必要なすべての世帯に関する情報共有をきめ細かく進めるため、室蘭児童相談所と2カ月に一度、合同会議を開催。今年は市内の小中学校とも同様の取り組みをスタートした。一人一人の担当者が抱える事案の件数は決して少なくはないが、「他都市で起こっている虐待死事件は人ごとのように思えない。だからこそ、できる限りの対策を続けなければならないと考えている」と危機感を募らせる。
一方、室蘭児相が管轄しているエリアは胆振と日高の4市14町。あまりに範囲が広く室蘭から日高地方まで移動し、対応できるのが1日1件ということも。また、年間通報件数のうち約半数は苫小牧の事案で、米田浩二所長は「今年も配偶者間の暴力に起因した心理的、または身体的な虐待の通告が数多く寄せられている。過去最多を更新した2018年度の644件を上回りそうなペースで推移している」と深刻な状況を説明する。
児童虐待が社会問題化する中、苫小牧市ではこれまで市や地元団体などが室蘭児相苫小牧分室の設置を継続的に要望。長年の活動により、市内双葉町で21年1月に開設する児童相談複合施設内に設置することが決まった。道はこれに先立ち、今年から児童福祉司4人を苫小牧に常駐。移動時間の短縮化を図るなど迅速な対応を始めている。
国も対策に乗り出している。今年6月には国会で改正児童福祉法と改正児童虐待防止法が成立。来年4月から一部を除き、保護者による体罰禁止法と合わせて法に基づく厳格な運用が始まる。
市こども支援課は「法規制が児童虐待の抑制につながることを期待している」と前向きに受け止めるが、一方で体罰以外の子育て方法が分からないという保護者もいると指摘。法の周知と積極的な運用以外に、若い世代を中心とした親教育の場作りなどを求める声も上がっている。
同課は年に数回、暴力や暴言に頼らない子育て方法を伝える講座「すてっぷ」を開催している。今年度は約40人が受講し、一定の成果が出ている。担当者は「子どもの命と人権を守るために今後も講座を重ねながら、児童虐待につながらない子育て方法を地道に広めていきたい」と話している。
(報道部 姉歯百合子)