遺伝子

  • ニュース, 夕刊時評
  • 2019年10月11日

  活躍する人々を紙面で紹介する。老若男女、目に力強さや気力がみなぎっている。元気だから表情がいい。笑顔が光る。情熱を注ぐ趣味や生きがいは手応えがあり、楽しみを得られる。生物学者の村上和雄氏は、そうした人は遺伝子が活性化した状態と説く。人の体は60兆の細胞で成る。全細胞に核があり、遺伝子を持つDNAがある。だから活性化した遺伝子と気力に満ちた心は治癒力を高める―と言われれば、理屈は通りそう。笑う門に来る福は偶然じゃない。

   マニアではない。が、かつて乗った車が今も好きだ。前の買い替え時には既に世代交代していた。だから別の車を購入した。これも使い勝手が良くじき15年。走行距離は22万キロ超。故障知らずの良車。

   けれど好きな車への思いは募る。中古車市場ではかなり減った。諦め切れない。まるで恋慕感情。半年かけて気になる一台を札幌に見つけた。19年前に生産されていて走行距離は相当。車体の傷みも相応。その割に内装の汚れは少ない。いま乗らなければ機会はなくなる―。覚悟を決めて整備し、車検を通した。時流を無視した武骨なマスク、個性的な機能性、泥臭いエンジン音と振動。経年を映す不器用な音は時々するが、機関の反応は上々だ。操り手の期待を満たす。

   この2台にメーカーのDNA、近ごろ揺らぐものづくり大国の証しを見る。イグニッションキーを回す。五感が応じ、心は躍る。(司)

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