世に知れ渡る剣豪の宮本武蔵は生年に諸説あるものの生涯が16~17世紀にまたがる歴史上の人物。剣術の奥義を記したとされる兵法書「五輪書(ごりんのしょ)」は、とりわけ有名だ。
名画も残し、江戸時代初期に鳥を描いた「枯木鳴鵙図(こぼくめいげきず)」は重要文化財として伝わる。鵙=モズが細い枯れ枝の先に一羽止まっていて、獲物に向く目と小さく鋭いくちばしが見て取れる。〈たったそれだけの水墨画であるが、その作品からはなんともいえない生命力が、こちらを圧するほどに吹き出している〉。嶋田忠さんが写真集「鳥のいる風景」(平凡社、1986年)に、その絵から感じた衝撃を記した。
千歳在住の自然写真家、嶋田さんは9月23日まで東京都写真美術館で2カ月間に及ぶ大規模な個展を催した。「野生の瞬間―華麗なる鳥の世界」の題。故郷埼玉県でカメラを手にし、モズを写してから現在までをたどる時系列的展示構成で、国内外の鳥類の姿を捉えた写真180点が壮観だった。
期間中の写真展入場者は2万6609人。閉幕前に念願かなって会場を訪ねると嶋田さんは今回の大きな手応えを語り、「また、新作勝負をしていきたい」と意欲を高めた様子だった。70歳。武蔵の描いたモズの絵が、追究し続ける鳥類活写の構図の原点と、その場で聴く。感想として「圧倒されました」と記者。「狙い通り」と言った写豪が破顔一笑した。(谷)