(9) 入浴 第7後方支援連隊(東千歳) 瀬川育彦3尉(43) 心身ともに温める

  • 災害派遣の記録, 特集
  • 2019年9月19日
シャンプーなどを無料で配る隊員たち(第7師団提供)
シャンプーなどを無料で配る隊員たち(第7師団提供)

  陸上自衛隊第7師団の数ある部隊の中でも、災害派遣のエキスパートと言えるのが第7後方支援連隊。給食や給水など民生支援の多くは部隊にかかわらず実施できるが、入浴支援の「野外入浴セット」を装備しているのは後方支援連隊のみ。大きなテントやビニール製の浴槽をはじめ、洗い場やシャワー、脱衣所も兼ね備えている。全国各地で災害が起きるたびに出動しており、胆振東部地震で被災した厚真町でも昨年9月8日~同10月5日、町総合福祉センターと厚南会館の2カ所で入浴支援を繰り広げた。

   同連隊は普段からキャッチフレーズ「真心、匠(たくみ)、絆」を掲げるが、中でも大事にしたのが「真心」。瀬川育彦3尉は厚南会館で入浴セットの設営から携わり、「被災者目線、被災者ファーストを常に意識した」と振り返る。例えば言葉遣い。「意識しないと返事で『了解』とか、自衛隊用語がつい出てしまう。優しい言葉遣いをしようと思った」と話す。

   開設初日は地震の発生から2日後。「オープン」前から男女それぞれ10人程度ずつが待ち構え、初日は利用が途切れることはなかった。男湯、女湯に男女それぞれを配置し、入浴所向かいに設けた待合所のテントで、訪れた人とできる限り気さくに会話した。「待っていてイライラしないか」など様子をうかがいつつ、小さな子供たちと一緒に遊ぶなど、町民のよりどころになれるよう心を砕いた。

   入浴支援は午前10時~午後10時で、1日当たり300~400人程度が利用した。風呂の温度はおおむね40度に設定したが「9月はまだ残暑だったので、昼は若干下げて、夜は寒ければ上げて。熱かったり、ぬるかったりで、リラックスできなければ意味がない。快適に過ごしていただくため、温度管理は一番気を付けた」と振り返る。

   町民が手ぶらで訪れてもいいよう、タオルやシャンプー、ボディーソープなどを無料で配った。子供たちが待つ間に飽きないよう、待合所にノートを置いて「お絵かきコーナー」を設けた。自然と町民の「寄せ書きコーナー」と化し、「温かいお風呂をありがとう」など感謝のコメントが続々と寄せられた。ニーズの聴取にも役立った。

   入浴支援の任務ではなかったが、各家庭で倒れたホームタンクの撤去や後片付けなども手伝った。「町民と接する機会がとてもあり、相談を受けることも多かった」と回顧。自衛隊が必要とされていることを肌で感じ、「われわれにできることであれば、何でもやろうと思った」と強調する。

   被災者を心身ともに温める入浴セットは、部隊ごとに思いを込めた屋号がある。同じく安平、むかわで活動した北部方面後方支援隊(島松)は「ふくろうの湯」、第2師団第2後方支援連隊(旭川)は「大雪の湯」。そして第7後方支援連隊は「すずらん湯」。スズランの花言葉は「再び幸せが訪れる」。隊員たちが被災地の復興を願う。

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