元道警警部 佐藤守さん(73) 子どもたち支え温かいまちづくり

  • ひと百人物語, 特集
  • 2019年9月14日
子どもたちの笑顔が忘れられないと話す佐藤さん
子どもたちの笑顔が忘れられないと話す佐藤さん
東京サミットに派遣され警備を行った際の記念写真(前列左から3人目が佐藤さん)=1979年
東京サミットに派遣され警備を行った際の記念写真(前列左から3人目が佐藤さん)=1979年
警察官として半生を過ごした(中央が佐藤さん)=1977年
警察官として半生を過ごした(中央が佐藤さん)=1977年
すすきので行った公開練習で綱渡り=1978年
すすきので行った公開練習で綱渡り=1978年
中学1年の時、札幌の自宅前で。隣りは姉=1959年
中学1年の時、札幌の自宅前で。隣りは姉=1959年
ジャガイモの収穫を楽しむ子どもたち=2019年9月
ジャガイモの収穫を楽しむ子どもたち=2019年9月

  9月初旬。安平町東早来地区に広がる1000平方メートルの畑に実る無農薬のジャガイモを収穫しているのは、苫小牧市内の子どもたちだ。「青少年の居場所を作り、健やかに育ってほしい」と語る道警OBの佐藤守さん(73)が、苫小牧署とNPO法人子ども総合支援ネットワーク(苫小牧市)の協力を得て、初めて企画した。その思いは、道警勤務や保護司活動を通じて育まれたものだ。

   1946(昭和21)年に札幌市で生まれ、自動車学校教官の父、母、姉の4人家族で育った。札幌経済高校を卒業後、炭鉱会社系列企業の札幌支店に経理マンとして入社した。

   当時は高度経済成長が進む一方、札幌の街中はデモ隊が活動を繰り広げ、すすきのの飲食店では暴力団が幅を利かせていた。実際に絡まれたこともある。社会人になって、荒れた世の中を肌で感じ「北海道の治安を守りたくなった」。19歳で道警に入職した。

   岩見沢署で警察官のイロハを学び、道警機動隊へ異動。旭川方面本部や旭川署などを経て、39歳の時に道警保安課へ配属されて刑事に転じ、全道の警察署を転勤で巡った。山岳救助や爆発物処理にも従事したほか、覚せい剤、管理売春、貸金、賭博といった犯罪を取り締まった。「とにかく事件を解決するために逮捕する」。強い信念を持ち、覚せい剤や管理売春の摘発、拳銃の押収で警察庁長官賞を3回受賞する活躍ぶりだった。

   2006(平成18)年、60歳で定年退職。これまでに逮捕した人数は数え切れないが「罪を償った後、更生して生きてほしい」と札幌で保護司を始めた。面接予定だった未成年者が出所後すぐに再犯してしまい、少年院まで訪ねて諭したこともある。「幼少の頃から地域の大人たちが見守っていれば、不良にならずに済んだのかもしれない」

   12(同24)年、長男が住む苫小牧市に居を移し、保護司活動は引退した。その代わりに、以前から取り組みたかった畑作りを始め、毎年たくさんの野菜を育てては、市内の子ども食堂に無償で提供を続けている。「栄養のある食事と、温かな団らんを子どもたちに味わってほしい」との強い思いからだ。

   自らの畑で収穫を楽しんだ子どもたちの笑顔が忘れられないと言い、苫小牧市内で子ども食堂を運営できないかと思案している。市内で知り合った道警OBや、札幌の退職者の集まりなどに声を掛け、安定的な運営のためにはNPO法人を設立するのがいいか、場所はどこにするか、運営方法を仲間と共に検討する日々だ。家庭環境に問題のある子どもたちを地域全体で支えていく「温かいまちづくりが求められている」。これからの人生を懸けて、子どもたちの居場所作りに挑戦していくつもりだ。(伊藤真史)

   佐藤 守(さとう・まもる)  1946(昭和21)年4月、札幌市生まれ。会社員から道警に転じ、刑事として犯罪の取り締まりに尽力した。定年退職後の2012(平成24)年に苫小牧市に移住。畑作りを始め、子ども食堂の設立を模索している。17年に危険業務従事者叙勲を受章。苫小牧市沼ノ端中央在住。

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