樽前山の自然誌を紡ぐ時、大きく三つの要素がある。火山、動植物、そして人との関係である。行政的にいえば火山防災、自然環境保護、そして観光である。現状では、観光は安全登山と言い換えることもでき、登山者と登山路の在り方がクローズアップされている。
■オーバーユース
樽前山の登山者数は年間3万人とも4万人ともいわれる。「山ガール」がはやった2009年、環境省などの調査によると、年間入山者数は3万人ほどと推定された。このうち7割ほどが「東山コース」、3割ほどが「お花畑コース」を利用していた。
道内トップクラスの登山者数で、特に初心者が多い。登山ブームに乗って「山デビュー」をこの山で飾る。道外客は、短時間で登れるこの山を、フェリーなどの待ち時間調整に充てることも多い。
70台分ほどの7合目駐車場は押し寄せる登山者で満車。その整理に人手をとられ、安全登山のためのパトロールもできない。明らかにオーバーユース(過剰な利用)が続いている。
■登山路の功罪
「登山者によって、登山路にどのくらいの負荷がかかっているかを調べたい」と道内の大学院生が教授と共に樽前山を訪れたのは、やはり登山ブーム隆盛の年の初夏のことだ。登山路に定点を幾つか設け、登山路の幅と深さを測定しておき、どれだけ幅が広がったり深く削れたりするかを調べる。登山者数は先の調査でほぼ分かっているから、登山者による登山路や山の自然への負荷が分かるのではないか。論文を書きたいという。
その定点杭が流失したとも聞き、結果は不明だが、推定できる場所が何カ所かあった。その一つが東山コース8合目上の緩やかな斜面の登山路。両側にロープが張られていたため幅は変わらなかったが、深さは数年で20センチほど、もともとの斜面から40センチほども深くなった。削られた大量の礫が下方の登山路や植物帯に流れ込んだ。
「道の外は歩かないで」と呼び掛けて山を守ろうとする登山路。それがオーバーユースの中で山を荒らすという、皮肉な現象が起きている。
■登山路と大雨
登山路は、大きな自然破壊の引き金になることが、2011年の大雨の際に明らかになった。
ひどい状況だった。「お花畑ルート」の上部の登山路が、大人が埋まるほどの幅と深さで数十メートルにわたってえぐれていたのだ。地質は火山礫だが、堅く踏みしめられていた。もともと、周辺よりやや低い登山路が斜面沿いに続いていた。どのくらいの降雨量だったのかは分からないが、大量の雨水が、その登山路に集まり、急流になって地面をうがったようだった。多くの植物群落が消失した。
「こんなの、見たことがない」
登山路は、地形に適した設計と十分な管理がなければ、自然破壊の引き金になる。人は自然とどう関わるべきかという問題の一端を提示した出来事だった。
(一耕社代表・新沼友啓)