全身運動と筋トレは舌の筋肉も保つ 舌は巧みに力強く動いて、食べること、かむことの中心に存在すると、これまでお伝えしてきました。食べ物に髪の毛が1本入ってしまっただけで、それを感知し、より分けて口から出す―。舌にこんな巧みな動きができるのは、感覚が鋭敏だからです。
この鋭敏な感覚は「舌触り」で食事を楽しむためにも利用されますが、本来は、食べた物に異物が混じっていたときより分けるために必要だったと言えます。
舌には、味を感じるという役割もあります。味覚は、栄養摂取と危険回避のために備わったと言われています。
甘味は、エネルギー源である炭水化物(糖質)の味です。塩味は、塩分やミネラルの味、うま味は体を作るたんぱく質の味。酸味は腐敗した食べ物を避けるため、苦味は有毒成分を避けるために、それぞれ発達したと考えられています。
舌が感じる味覚は、生きていくため、またおいしさを感じてより豊かに生きるために必要なものなのです。
年を重ねても、舌の能力を保つための方法は幾つかあります。舌の内部はほぼ筋肉でできています。体を動かしたり支えたりする際に使われる全身の骨格筋がしっかり付いていると、舌の筋肉量も保たれやすくなりますから、適度な全身運動と筋トレをまずお勧めします。他の方法についても、次回詳しく紹介します。
とはいえ、舌の巧みな運動機能も感覚機能も、年とともにいずれは衰え、晩年になると、しっかり栄養を摂取することと鋭敏に味を感じることが難しくなってきます。
ただし、食事は味を感じるだけのものではありません。誰と、どこで、どんな状況で食べるかによって、おいしさは違うものです。感覚の衰えをも超える楽しい食事の場面があれば、恐れることはありません。
(菊谷武・日本歯科大口腔リハビリテーション多摩クリニック院長、イラストはカモシタハヤト)