ちなみに… 五十嵐(いがらし) 啓子(けいこ)

  • ゆのみ, 特集
  • 2024年6月22日
ちなみに… 
五十嵐(いがらし) 啓子(けいこ)

  「先生、『ちなみに』とは何ですか」

   私が中国で日本語教師をしていた時に、学生からこんな質問を受けたことがある。「ちなみに」は、前述した内容に何か別の情報を補足するときに使う接続詞である。おせっかいな私は、日本への留学経験がない学生たちに、「ちなみに、ちなみに」と言って、授業とは関係の無い日本のリアルを伝えていたに違いない。日本語教師駆け出しの頃の思い出である。

   日本語教師は国が定める幾つかの要件を満たした語学教師で、今年から国家資格となった。しかし、日本語を教えられれば、それでいいというわけではない。日本で日本語を学ぶ留学生は、在留カードの常時携帯、アルバイトの時間制限といった法律から、ごみの分別、アパートの騒音、あいさつなどのマナーの果てまで、多くのことを覚えなくてはならない。

   すなわち、日本語教師は留学生が日本で安心安全に生活できるようにするために必要な情報を伝え、時には厳しく指導しなければならないのである。外国で生活した経験のある人なら想像できると思うが、異国の地では「知らない」というだけで、ルール違反、マナー違反と言われてしまうことがある。だから、留学生が学校外の世界で嫌な思いやつらい経験をしないように、日本語以外の多くの情報を教えることも重要な役割なのである。

   ちなみに、今でも時折おせっかいが顔を出す。そう考えると、案外この仕事が合っているのかもしれない。

  (HISAE日本語学校校長・苫小牧)

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