東京電力福島第1原発の処理水放出から半年が経過した。政府は各国の懸念を踏まえ、安全性の説明に奔走。国際原子力機関(IAEA)の「お墨付き」も後ろ盾に、一定の理解を得てきた。だが、水産物の大口輸出先である中国はなお「核汚染水」と批判したままだ。日中両国は対話による解決を探るものの、禁輸解除は見通せていない。
森屋宏官房副長官は1日の記者会見で「中国との意思疎通はさまざまなレベルで行っている。引き続き丁寧に説明するとともに、輸入規制の即時撤廃を強く求めていく」と語った。
昨年8月24日の海洋放出直後に中国が日本産水産物の全面禁輸を発表すると、日本政府内には「そこまでやるとは」(高官)と動揺が広がった。主力のホタテなどが打撃を受け、同年の中国向け水産物の輸出額は前年比約3割減と大きく落ち込んだ。
岸田文雄首相はこの間、国際会議や首脳会談で安全性を繰り返し訴えた。外務省は風評被害につながる「偽情報」がないか各国報道を監視。韓国からは専門家視察団も受け入れた。
日本は特に太平洋島しょ国を重視した。過去に米英仏の核実験場となり、強く憂慮を示していたためだ。首脳らを日本に招くなどして説得を重ね、当初反対していたミクロネシア連邦などから支持を取り付けた。
IAEAは、放出前後から一貫して日本の対応を「安全基準に合致」と評価。グロッシ事務局長は今月12日から来日し、同原発を改めて視察する。国際社会の理解が広がる中、日本政府は中国の対応を世界の潮流と逆行した「突出した行動」(首相)と主張。禁輸撤回を求めつつ、専門家による説明を打診したが、中国側はなかなか応じなかった。
昨年11月の日中首脳会談で、ようやく専門家協議の実施で一致したが、この場でも習近平国家主席は「核汚染水」と表現した。今年1月に行った初回協議は、放出に批判的な中国の世論に配慮して非公表扱いとなり、協議自体も「平行線」(日本外務省筋)をたどったという。
中国側は対話を維持する姿勢を示し、2月には日中の外務省局長協議も開かれた。日本政府内には「状況は改善している」との期待もあるが、楽観はできない。
同原発では汚染水漏えいなどトラブルが相次ぎ、日中協議にも影響を与えかねない。神経をとがらせる首相は関係閣僚に国内外への丁寧な説明を指示した。5日開幕の中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)も控え、「すぐに禁輸解除とはならない」(首相周辺)との見方が大勢だ。