能登半島地震をきっかけに埼玉県坂戸市から石川県輪島市に移住し、タクシー運転手になった女性がいる。当初は数日のつもりだったという安沢美佳さん(47)は、住民票を移し、輪島で送る生活を「初めて知ることが毎日あった。当たり前と思っていたことが、そうではないことを目の当たりにした」と語る。
「きっと人手が足りない」。元日に起きた地震の様子をテレビで見て、すぐに現地に行くことを決意した。子どもたちは既に独り立ちし、自身は1人暮らし。台風の被災地でのボランティア経験もあり、保育の経験や介護士、防災士の資格が生かせると考えた。
翌日には粉ミルクやおむつを買い込み、車で現地へ向かった。タクシー運転手の経験もあり、紹介されたタクシー会社を訪問。最初は「今は電話もできず、営業できない」と断られたが、引き下がらなかった。「負担は掛けないので、営業が始まったら働きたい」。熱意が伝わり、1月中旬から住み込みで働き始めた。
高齢の女性を入浴施設まで送迎した際は、帰り道で何度も、入浴できた喜びを伝えられた。久しぶりに再会した家族が「生きていて良かった」と抱き合うのを間近で見たこともあった。日々の仕事の中でさまざまな場面に出くわし、「勇気づけられた」と語る。
発生から間もなく2カ月。「こんなに長くいると思わなかった」と安沢さん。被災した運転手も徐々に復帰し始め、埼玉に戻ることも考えている。今後について、「人に喜ばれることなら何でもいいのでやっていきたい」と語った。