日高山脈という漢字4文字を見ると、それだけで姿勢が正しくなる気がする。30代前半の赴任地・日高で初めて登った山が無謀にも山脈の最高峰・幌尻岳(2053メートル)だった。登山道脇の高山植物は花期を終え、赤や黒に輝く実を付けていた。氷河期に氷が削った七ツ沼カール(圏谷)の紅葉の美しさを忘れない。ナキウサギのつぶらな瞳、ピーッという甲高い鳴き声も、いまだに覚えている。
日高山脈襟裳国定公園が今夏、国立公園に指定される。指定が近づき、関係自治体や議会、自然保護団体の動きが活発になっている。帯広市長らは「十勝」を名前に加えるよう要望を出している。
環境省は22日の中央環境審議会自然環境部会に「十勝」を加えた「日高山脈襟裳十勝国立公園」を提案した。しかし意見が分かれ異例の多数決了承になった。大雪山系の南には十勝岳(2077メートル)を主峰とする十勝連峰がある。日高山脈にも山名に「十勝」の付く山が二つ、ある。「十勝だらけ」「観光優先」への批判は強そう。十勝自然保護協会は26日、再度の審議を求める要望を提出した。
日高山脈の魅力を改めて考える。どんなに遠く、奥深くとも、貴重な動植物の命を育み、高く鋭く輝く、稜線(りょうせん)の美しさを思い出しながら。(水)