白老町在住の絵本作家でアイヌ文化伝承者、宇梶静江さん(90)の講演が10日、拠点のある町東町のシマフクロウの家で行われた。2023年度の北海道文化賞とアイヌ文化賞のダブル受賞を記念して開催。町民や近郊在住の約30人が訪れ、宇梶さんの話に耳を傾けた。
宇梶さんは、親交の深い白老アイヌ協会の山丸和幸理事長(75)との関わりから、埼玉県白岡市から白老町へ移住して3年目を迎える。「まるで昔から知っていたかのような親しみを感じる大好きな白老。海も山も広場もあり、こんな理想的な場所はない。人も優しく、居やすい雰囲気を作ってくれる」と笑顔を見せた。
会場にいた山丸理事長も「正直言うと、ご高齢で慣れない土地に暮らすのは心配だった。でも全国各地から訪ねる人があり、元気に過ごされている様子を目の当たりにし、杞憂(きゆう)だったと感じている。今後も町民の一人として支えたい」と語り掛けた。
宇梶さんは自身の半生を振り返り、知里幸恵が編集、翻訳した「アイヌ神謡集」に衝撃を受けたことが詩を書き始めたきっかけだと語った。恵みや喜びを分かち合うアイヌ文化や精神を「若い人たちと一緒に残していきたい」と述べた。
宇梶さんは1933年3月、旧荻伏村(現浦河町)で6人きょうだいの次女として生まれ、23歳で上京。27歳で結婚し、2児の母となる。72年2月8日付の朝日新聞の投稿欄で「ウタリ(アイヌの同胞)たちよ、手をつなごう」と呼び掛け、翌年に「東京ウタリ会」を設立。東京在住の同胞たちと積極的に交流した。
63歳で古い布にアイヌ文様刺しゅうを施し、神謡の情景を表現する「古布絵(こふえ)」を始め、2011年にその業績が認められて吉川英治文化賞を受賞している。22年には自伝的記録映画「大地よ アイヌとして生きる」(藤原書店配給、金大偉監督)が製作された。