「廃業だよ。つぶすしかない」。石川県珠洲市の老舗和菓子店「多間栄開堂」3代目、多間俊夫さん(72)は能登半島地震で損傷した店舗兼住宅を見詰め、半ば諦めたように語った。変わり果てた街の姿に「菓子どころではない」と肩を落とす。
多間栄開堂は明治時代に創業。110年を超える歴史があり、梅の花の形をしたカステラ生地の「太鼓まんじゅう」が人気だ。地元の能登大納言小豆を使ったきんつばや、ワカメ入りのあんが詰まった「わかめ最中(もなか)」も評判で、市の観光サイトで「名実ともに珠洲市を代表するお菓子」と紹介されている。
太鼓まんじゅうは地域の祝い事に欠かせない縁起物という。新年祝いで買い求める客のため、今年も1月2日から営業を始めるはずだった。だが、開店前日、街の姿が変わった。
慣れ親しんだ地元を離れ、金沢市に避難した多間さん。地震から1カ月近くたったころ、ようやく電気が通ったことを聞きつけ、妻と2人、日帰りで珠洲市に戻った。散乱した店内を片付けるためだが、築約100年の店舗兼住宅は、柱がずれて傾き、応急危険度判定で「立ち入り危険」を示す赤紙が貼られている。
自分の代で店を閉めるつもりではいたが、こんな形で店じまいを迫られるとは、思ってもいなかった。「できる限り(続けよう)と思っていた」と多間さん。「廃業」の二文字を口にした表情には悔しさがにじむ。「地元の人は菓子どころではないでしょう。やっぱり地元の人が買いに来ないと」。力なく語った。