能登半島地震は石川県の主要産業の一つ、漁業にも深刻な被害をもたらした。県内69漁港のほとんどで岸壁や道路などの施設が破損。特に珠洲市から輪島市、志賀町にかけての半島北部の沿岸で地盤が大きく隆起し、21漁港で海底露出や水深不足が確認された。「船が出せんし何もできん」。漁師たちは「宝の海」を前に打ちひしがれている。
県内最大の漁獲量を誇る輪島市の輪島港。本来ならば、「寒ブリ」やタラ、カニといった冬の味覚が次々と水揚げされ活気にあふれているはずだった。市内で震度7を記録した元日の地震で、港の施設には大きな亀裂が入るなど、ことごとく損壊。給油所や製氷機までも使えない状態になった。
特に深刻なのは、海底の隆起だ。一帯の地盤が2メートルほど持ち上がったことで水深が浅くなり、いくつもの船が座礁。県漁業協同組合はクレーンで引き上げ、被害の少ない港に移す方針を決めたが、動かせなくなった船は約200隻に上る。
漁協輪島支所の上浜敏彦統括参事(58)は「荷揚げはおろか、出港すらできない」と声を落とす。漁の再開はめどが立たず、「復旧工事や仮施設の整備を進めたいが、相当の時間がかかりそうだ」と懸念する。
輪島港の漁師は約1000人。刺し網漁を営む中野豊さん(53)は、港の変わり果てた姿に絶句した。船を出せない現状に「ただただ、もどかしい」。漁師は個人事業主で雇用保険がないため、被災で収入も断たれた。「このままでは漁師を辞める人が出てくる。何とか踏ん張るために支援を」と訴える。
県の漁業生産額は132億円(2021年)に上る。県水産課によると、珠洲市の蛸島漁港など、被害を受けたが、操業を再開した漁港もある。担当者は「漁業者の声を踏まえつつ、応急措置や支援策など、やれるところからやっていきたい」と話している。