「うそじゃないのかな。いまだに信じられない」。石川県に甚大な被害をもたらした能登半島地震は1日で1カ月。輪島市の山下真由美さん(49)は元日に訪れた、夫正博さん(51)との突然の別れを受け止め切れずにいる。
真由美さんは30年以上前の高校時代に正博さんと交際を始め、25年前に結婚。正博さんは製材所に勤め、「何でも修理するのが好きな人」。授かった3人の子どもをかわいがる子煩悩な父でもあった。
真由美さんが正博さんと最後に会ったのは、昨年のクリスマスだ。真由美さんは寝たきりの母親の介護のため、同じ輪島市内の実家に次女(13)を連れて移り、長男と長女は就職して県外に。自宅には正博さんが1人で残っていた。
元日は実家も激しく揺れ、後に行われた応急危険度判定で、立ち入るのも危険な「赤紙」が貼られるほどの被害を受けた。真由美さんは、家を離れたがらない母を必死に説得。母、次女と3人で福祉避難所へ逃れた。その間も、正博さんとは連絡がつかないままだったが、「通信障害かな、と思っていた」。
自宅1階部分が土砂で押しつぶされていたことを知ったのは、福祉避難所へ移ってから。正博さんとは依然、連絡が取れていなかったが、捜索活動は、不明者の生存が確認されている現場が優先。最愛の夫が変わり果てた姿で見つかったのは、6日になってからだった。
駆け付けた長女と長男は、火葬場で泣き崩れたという。次女は「大丈夫」と気丈に振る舞うが、真由美さんは「強がっているのかな」と案じている。
時が経過するにつれ、信じられないと同時に、信じたくないとも思うようになった。「信じるしかないのか。まだ戻ってくるんじゃないかと思ってしまう」。そう吐露し、目を潤ませた。