2023年11月11日。自分はカーテンコールの照明の下で、観客の拍手を20年ぶりに受け止めていた。
さかのぼること約3時間前。キャストの体調不良により急きょ追加の代役を引き受け、本番に臨んでいた。冒頭のシーンに出るため舞台前方に座る。小劇場芝居の舞台ばかりに立っていた自分は、なぜだか客席がとても遠く感じ、そのためか客席のお客さまの顔がはっきりと見えてしまう余裕さえあった。もともとは俳優として舞台に関わり始めたからかだろうか、居心地はそう悪くない。
そんなことを考えつつもどんどんとシーンは進んでいく。キャストは演技だけではなく、裏の道具出しから他のシーンのセッティングまでこなさなければならないのだが、5役の代役をこなしていくとなると、シーンに間に合うように衣装を早替えするため、舞台裏をとにかく疾走しなくてはならない。短時間ではこなせない部分も出てきてしまったが、そこは他のキャストやスタッフがカバーしてくれたので、無事カーテンコールまでたどり着く。
客入れ前のどたばた劇から約3時間後。カーテンコールの舞台から客席の風景と拍手を味わう。この風景と拍手の音は、舞台裏でいつも見聞きしているものとは違うものだった。本番前に急いで打ち合わせをした、メインキャストの須藤夏菜子と若山一歩の顔を2階建ての舞台からチラリと見る。無事終えた安堵(あんど)の表情で一礼していた。恐らく自分も同じような顔をしていただろう。
そして、市民参加演劇祭が終わるまで、あと1ステージとなった。
(舞台演出美術家・苫小牧)