「宿泊先からたたき出される」

  • 内山安雄の取材ノート, 特集
  • 2024年1月26日
「宿泊先からたたき出される」

 この季節にふさわしく、ちょっと寒さにまつわる話にしよう。

 東ヨーロッパの社会主義の国々が民主化革命で揺れていた時期、国際列車を乗り継いで各国の実情を見て歩いた。パリ発の国際列車に揺られ、次の日に降り立ったのはブルガリアの首都、真冬のソフィア。そこが乗っていた列車の終着駅だった。間もなく日付が変わろうという時刻、車内で知り合ったトルコ人の若者と一夜の宿を探すことにする。

 凍りついた到着ホームから荷物を引きずり、雪に埋もれた駅舎にたどり着く。すぐさま立派なコートにネクタイ姿の、人品卑しからぬお年寄りが、片言の英語で話しかけてきた。

 「ホテル? いいところあるよ」

 客引きのようだ。値段もそこそこ、これは渡りに船だ。連れの若者と顔を見合わせ、同時にうなずく。意外と大柄で頑丈そうな老人の背中を追いかけること10分ほど。古びたビルの前にたどり着く。2人一緒にすっとんきょうな声を張り上げていた。

 「どう見ても、ここ、ホテルじゃないよ!」

 「ふつうのアパートじゃないですか」

 老人は自宅アパートを旅人に貸すのを副業にしているのだ。2部屋とはいわない。ひと部屋丸ごと貸してくれるなら、まだよしとしよう。ところが……。

 住まいは2部屋しかなく、居間は物であふれている。なんと、寝室に二つあるベッドの片方を客人にあてがおうというのだ。

 ここまできて断るわけにもいかない。老夫婦のイビキや寝言を聞きながら眠りにつくしかなかった。このまま昼までゆっくり寝られたのならまだしも――。

 5時間ほどで老人にたたき起こされたではないか。何事かと思いきや、次のお客さんを駅で見つけてきたので、ベッドを明け渡してくれというのだ。

 寝ぼけ眼でぶぜんとしていると、愛嬌(あいきょう)のある顔だちのおばあさんが熱々のコーヒーを差し出し、ひたすら恐縮している。

 聞いてみれば、経済の混乱により、老夫婦の年金暮らしが立ちゆかなくなったのだとか。だからブルガリアでは多くのお年寄りがこうして副業に精を出しているのだという。

 せつない話を聞いた我々(われわれ)が、文句をいわずに寝室を出たのはいうまでもない。

 その後、東欧のいたるところで、生活費の足しにするべく、民泊の客引きにいそしむ年金生活者の姿を目にすることになる。社会主義の末路とは、かくもわびしく厳しいものであった。

 ★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。

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