この冬も、高齢者を中心とした町民へのコロナワクチン集団接種が始まった。ちょっとおかしな言い方だが、私はこの仕事が大好きだ。接種会場はいつも笑いにあふれているからだ。
「ワクチンでなぜ笑いが?」と不思議に思う人もいるだろう。会場での看護師と町民たちの会話を再現してみよう。
「あ、セーターの下に下着が3枚も!これじゃ打てませんよ」「まくるからいいだろう?」「ダメダメ、肩まで出して。あー、きつくて脱げないじゃない」「そんなに強く引っ張らないでよ、アハハ」「看護師さん、私は肩のところがボタンではずれるシャツを自分で作って着てきたのよ」「あ、本当ですね。すごーい」「いいでしょう、アハハ」
そのノリが私にも伝わり、問診で「今日は酒を飲んでいいのかい?」「いつも飲み過ぎなんだから、これから1カ月は禁酒です」「ムリだよ、アハハ」と笑いが出ることもある。
どうしてこんなやり取りができるのか。それは、接種にやって来る人たちが普段から顔を知っている町民だからだ。初対面の人にいきなり「ワクチンのあとは禁酒」などと言ったら、「医者の問題発言」としてクレームがつけられるかもしれない。
接種会場では、久しぶりに顔を合わせた知り合い同士も「あら、元気だった?」「まあまあね。今度お茶においでよ」と話に花を咲かせている。問診で「ああ、同じ名字のあなたたち、親子だったんですね」と人間関係を知ることもある。ワクチンの場は社交の場、気付きの場でもあるのだ。
もちろん、この穏やかさは、コロナウイルス感染症の勢いが以前よりなくなった今だからこそ味わえるものだ。重症者が続出していた頃は、ワクチン接種会場も緊張に包まれ、「おしゃべりは禁止です」と注意書きが貼られていた。
今年の北海道はインフルエンザが猛威を振るっている。コロナに感染する人もいまだにいる。これ以上、感染が広がらないよう、症状が重くなる人が出なければいいと願う。油断し過ぎないように手洗いをし、休息や食事で体力を維持することも忘れないでほしい。
ワクチンの集団接種が終われば、いよいよ新しい年も近い。今年が良い年でもそうでもなくても、新しい年にはきっともっと素晴らしいことが待っているに違いない。そう信じてこの年を越したい。
(むかわ町国保穂別診療所副所長、北洋大学客員教授)