むかわ町の鵡川漁業協同組合が10月5日、1991~94年以来29年ぶりに「鵡川ししゃも」の休漁を決めた。8月下旬から9月上旬に行った事前の調査で資源量が少なかったことや、ここ数年記録的な不漁が続いていたことを踏まえての措置。資源回復を優先させる苦渋の決断だが、全国区の知名度を誇る特産品の先行きは見通せず、関係者の暗中模索が続く。
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鵡川漁協によるシシャモ漁は近年、漁獲量が年々下降線をたどっていた。2017年の72トンをピークに、20年は3トン、21年は1・4トンと落ち込み、22年は100キロにも届かないわずか64キロと歴史的な不漁だった。
海水温の上昇により、稚魚が生き残れなかったことが主な要因とされているが、解明には至っていない。昨年11月に町内で稼働を始めた新たなふ化場でも、受精卵は計画目標1億4000万粒に対し、実積は550万粒にとどまっていた。
休漁の影響は、町内にも影を落とした。「むかわにシシャモはない」などの言葉が独り歩きし、例年10~11月に増える観光客が激減。各加工販売店に訪れる客は例年の半分以下にまで落ち込み、その流れが飲食店にまで波及する。
まちに活気を取り戻そうと、各店舗では道東方面から取り寄せたシシャモを、鵡川「伝統の技術」で加工して販売。町観光協会は例年「ししゃもまつり」を開いていた11月上旬、名称を変えた「むかわ味覚まつり」を開催。にぎわいを創出しようと奮闘し、シシャモ焼きのほか、地元産米と「ししゃも醤油」を使ったみたらし団子や和牛ハンバーガーなど、地元の食材をふんだんに提供した。
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危機的状況を打破しようと9月下旬、町と鵡川漁協、道内調査研究機関などで構成する「鵡川ししゃも資源再生調査研究会」を立ち上げた。ししゃもふ化場を拠点に、各研究機関のデータ情報を集約、共有、利活用し、原因の究明、資源の回復を図り、年間水揚げ量50~100トンを目指す。鵡川漁協の小定雅之専務理事は「漁業のなりわいが成立するよう、最大限の努力をしていく」と話す。
町も公式SNSで町内のシシャモ販売をアピール。年末に向けて加工販売店を支援しようと、町内4事業者で提供する詰め合わせ計400セット分の道内発送費用を独自に負担した。竹中喜之町長は「絶対に幻の魚にしてはならない。私たちの手でシシャモの復活、再生を図っていきたい」と力を込める。町のブランド再建へ、今は我慢の時だ。
(石川鉄也)