この一冊、あの一日 加藤(かとう) 千昇(ちしょう)

  • ゆのみ, 特集
  • 2023年12月21日
この一冊、あの一日 加藤(かとう) 千昇(ちしょう)

  「ブックサンタ」は、NPO法人チャリティーサンタ(東京都千代田区)が毎年クリスマスに行っているプロジェクト。さまざまな境遇にある全国の子どもたちに誰でも本を贈ることができる。参加方法は、賛同している書店で好きな一冊を選んでレジで購入して預けるだけ。実際に本を選ぶとなるとあれもこれもと欲張ってしまうものだが、悩み抜いた末に僕もお気に入りの一冊を選んで預けた。その日から、クリスマスをどこか楽しみにしている自分がいる。

   最近また、その本を読みたくなって自宅の本棚を探してみたが、なぜか見つからない。しばらくたったある日の朝、その本を以前、人にあげたことを何の脈絡もなく思い出した。

   2年前、厚真町に移住して初めての冬に、仲良くなった旅人がいた。全国を軽トラックで巡っていた彼こそ、この町でできた初めての友人だった。一言で表すなら剛毅木訥(ぼくとつ)。自分の哲学を持ちながらも周りの人々や自然に向ける、真っすぐなまなざしに僕は憧れていた。またいつか会おうと約束し、僕はその時目に入った一冊を本棚から抜き出してあげた。そんなこと、すっかり忘れていた。くしくも同じ本を今年のブックサンタに選ぶなんて、僕はよっぽどその本が好きらしい。

   振り返ってみると、僕は何かにつけて人に本をあげることが多かった。誰にどんな本をあげたかなんてほとんど覚えていないし、あげた本を最後まで読むことも期待していない。ただ、あげた本をすっかり忘れて本棚を探してしまう時、あるいはいつか相手が部屋の片隅でその本を見つけた時、ありふれた幸せな一日を少しでも思い出せるのであれば、本はやはりすてきな贈り物だと思う。

  (厚真町地域おこし協力隊)

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