岸田文雄首相が年内の衆院解散を見送る意向を固めたことで、来年秋の自民党総裁選での首相の再選戦略は見直しを迫られる。低迷する内閣支持率の回復が見込まれない中、年明け以降も解散のタイミングを探るのは容易ではない。長期政権を目指すシナリオには暗雲が垂れ込めてきた。
「経済回復が一番の願いだ」。首相は今週、今後の政権運営について自民党幹部にこう伝えた。この幹部は首相の言葉から年内解散見送りの意向を感じ取ったという。
年内解散のラストチャンスとみられていたのが2023年度補正予算案の成立直後。首相は補正を「臨時国会で成立させたい」と明言していたためだ。関係者によると、首相は最後までこのタイミングでの解散を探る構えを見せていたが、政権浮揚への「切り札」だった所得税減税には「選挙目当て」(立憲民主党幹部)とのイメージが定着した。
内閣支持率が「危険水域」とされる2割台に落ち込む世論調査も続出。「首相は解散しか頭にないと国民が感じ始めた」(政府関係者)との指摘も出ていた。臨時国会では政務三役の辞任も続き、「解散どころではなくなった」(自民党中堅)ようだ。
政府は来年1月召集の次期通常国会に、24年度予算案や税制改正関連法案を提出し、年度末までに成立させ、6月から減税を実施する方針。冒頭解散だと予算案などの年度内成立が困難となることから、解散の機会は予算案成立後の来春以降との見方が出ている。
通常国会では、衆参予算委員会で2カ月程度にわたり野党の追及を受けるため、政権の体力がそがれることが多く、支持率が反転するかは見通せない。
低空飛行のまま総裁選が近づけば、25年の参院選や衆院議員任期切れを見据え、自民内で「新たな顔」を求める声が強まりかねない。党ベテランは「このままでは解散しようとしてもできなくなる」と指摘。党関係者は総裁選について「首相退陣による前倒しもあり得る」との見通しを示した。