本道の産業拠点として成長する苫小牧東部地域。国際港湾として発展する苫小牧港の東西両港や日高自動車道、新千歳空港に近い交通の要衝とともに、GX(グリーントランスフォーメーション)の動きも、大きな優位性の一つだ。化石燃料から太陽光発電などクリーンなエネルギーへと転換し、社会を変革しようという取り組み。それを産業分野から推進する地域として注目を集めつつある。
苫東地域では、いち早く二つのプロジェクトが動いた。一つは太陽光発電。日射量や風向など太陽光発電に向いている地域との実証を得て、シャープやソフトバンクが、大規模太陽光発電所(メガソーラー)を建設した。
もう一つは苫東地域内の南早来変電所に設置された蓄電池。北電と住友電気工業の共同事業で電力出力の調整機能を担う。株式会社苫東の辻泰弘社長は「(苫東で)この二つのプロジェクトが動いたことが、会社にとっては大きな転機になった」と強調する。
特に太陽光発電の効果は大きく、再生エネルギーが「苫東にあるという大きな優位性をつくれる」(辻社長)ことが、国土交通省の提唱する「苫東GXHUB構想」につながった。脱炭素のカーボンニュートラルを実現するための将来ビジョンだ。
GX実現へ苫東では「三つの流れを考えている」(辻社長)。一つは太陽光発電と産業拠点の結びつきをどうつくっていくのか。企業が自営線を結んで実際に製造過程の中にクリーンエネルギーを活用していく形がある。工場の中に再エネ設備をつくり、工場のエネルギーの一部を賄うケースも始まっている。
既に、自動車関連企業はその代表例として太陽光などの利用を積極的に進めている。今月、開所式を迎える医療機器製造などのカネカ(東京)は、苫東工場の中にクリーンエネルギーを導入し、最終的にはゼロエミッション工場を目指す構えだ。
二つ目は苫小牧港・東港臨海部で建設が進む苫東バイオマス発電。来年4月の稼働に向け工事は順調。輸入の木質ペレットなどを使用燃料に使う計画で「再エネも多様化していく流れ」(辻社長)の一環だ。
三つ目は「先駆的な取り組みとして期待」されているのが、北電の苫東厚真発電所を中心に、燃料アンモニアのサプライチェーン(供給網)構築への検討が始まっていることだ。オーストラリアで低炭素のアンモニアを製造し、それを日本に海上輸送、火力発電所で受け入れる流れ。事業化調査が進んでいる。
GXを目指す苫東はこうした再エネの供給ばかりではなく、それを使う企業が立地していることは大きな特徴。辻社長は「需要と供給が一致して強みをつくれるのが苫東だ」と強調する。
さらに、GXの動きが企業誘致の在り方にも変化をもたらしている。これまでのように、単純な企業進出という形でなく、金融機関やゼネコン、商社などからの問い合わせも多く「お互いに考えて(再エネなどを)活用していこうという提案型になっている」と指摘する。
「GXの先進地を目指す」。その先行地域として、苫東は着実に歩を進めている。