お盆のたびに思い出すことがあります。母が最後に作った「精霊馬」のことです。精霊馬を飾るかどうかは宗派によりますが、ご先祖さまが浄土と現世を行き来するために乗る馬と牛に見立てて用意するものです。
母が2011年に若年性認知症と診断されてから、13年たちます。最後に精霊馬を作ったのは14年。この頃は化粧をし、髪飾りを選び、髪を自分で結わいていました。同時に、今、何をしようとしていたか?何の話をしていたか?という記憶がすっぽり抜け落ちてしまう認知症特有の症状も増えていました。自分の変化を自分で一番感じ、傷つき、闘っていた頃だと思います。
母が仏壇の前で手を合わせる姿を、私は子どもの頃から見ていましたが、この頃は涙ながらに手を合わせることが多かったように思います。この時、母が用意した精霊馬は、ナスとサツマイモで作られ、足はナスに3本、サツマイモには1本しかありませんでした。「かっこいいじゃん」と言うと「だべ!」と母は笑いました。以前の自分との違いに戸惑いながらもお盆支度をしたのだと思うと、胸がぎゅーっと締め付けられます。
母が認知症と診断されてからこれまで、命や人生は、ままならないのだと感じる日々です。今年4月に父の三回忌を終え、迎えるお盆。父が「ご先祖さま」の中に加わったことへの実感が、ようやく湧いてきたように思います。母のように、私もご先祖さまを思い、感謝をし、手を合わせるお盆を過ごしたいと思います。
(納棺師・苫小牧)