山々に抱かれた四国の奥深く、水面すれすれに横たわる不思議な橋があります。欄干がなく、増水すれば水没する運命を持つ橋、それが沈下橋です。高知県を中心として西日本に点在する独特の構造物は通路以上の存在で、ある意味、四国の魂を映す鏡であり、この地に生きる人々のたくましさと知恵の結晶なのかもしれません。
狭い道路、山深い峠、人里離れた寂れた国道。四国の道は、まるで運転の腕前を試すかのように、極めて挑戦的です。ガソリンスタンドさえなかなか見つからない山道を走り抜け、やっとの思いでたどり着く先に現れる沈下橋。その姿は、まるで「よくぞここまで来た」と労をねぎらってくれているかのように見えました。愛車のダッシュボードに鎮座する愛らしい縫いぐるみたちも、その時の「冒険」の良き伴侶でした。彼らは黙って、この土地の物語を聞いていたのかもしれないですね。
沈下橋は、自然との共生をまさに体現しています。増水時には潔く水に身を沈め、川の流れを妨げない。その姿勢は、風水害などに遭っても自然の力を受け入れ、しなやかに生きる四国の人々の哲学そのもののように思えました。
しかし、時代の流れとともに、安全性や利便性を求めて架け替えられる沈下橋も増えてきたように思います。変わりゆく風景の中で、われわれは何を守り、何を変えていくべきなのか。
沈下橋は、そんな問いを静かに投げ掛けているのかもしれません。
(苫小牧工業高等専門学校准教授)