自転車旅行(上) 五十嵐(いがらし) 啓子(けいこ)

  • ゆのみ, 特集
  • 2024年7月13日
自転車旅行(上) 五十嵐(いがらし) 啓子(けいこ)

  この時期になると、自転車に大量の荷物を積んで走る人を見る機会が増える。そのたびに思い出すことがある。

   社会人から大学生になった私にとって、夏休みはぜいたく極まりない長期の休みだった。この休みを利用しない理由はないと思い、自転車旅行をすることにした。

   もともと片道10キロ近い通勤路を自転車で通ったり、支笏湖まで走ったりしていたが、遠くまで行ったことはなかったため、ニセコ町(後志管内)往復1週間の旅と称して自転車旅行の計画を立てた。

   苫小牧市を出発後、札幌市、小樽市を経由し、倶知安町(同)を通ってニセコを目指し、帰りは支笏湖を通って戻るというルートだ。これが想像以上にハードだった。しかし、上り坂の向こうに待っている下り坂の爽快感、車では見えない景色、非日常の刺激的な時間がそこにはあった。

   旅行中はなるべく出費を抑えるために、友人宅やキャンプ場、ライダーハウスなどに宿泊した。ある時、宿泊先のライダーハウスの店主に、どこから来たのかと尋ねられた。私が「苫小牧」と答えると、「なんだ、北海道かい」と想像しない言葉が返ってきた。こんなにハードな自転車の旅なのに、同じ北海道というだけで「なんだ」と言われてしまうのか。そう思った私は、次は「えー!北海道から自転車で来たの?!」と言われる旅に出てやる!と、何とも浅はかな考えで計画を立て始めた。

   そして、翌年の夏休み、東北6県を1カ月かけて回る一人旅を始めたのだった。

  (HISAE日本語学校校長・苫小牧)

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