市と大東開発 エガオ問題解決へ 動きだす駅前再開発

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  • 2024年7月8日
市と大東開発 エガオ問題解決へ 動きだす駅前再開発

  苫小牧市とJR苫小牧駅前の旧商業施設「苫小牧駅前プラザエガオ」の土地の一部を所有する不動産業、大東開発(苫小牧市若草町、三浦勇人社長)が、土地交換を条件に駅前再開発について協力して進めることで6月4日に合意し、関係者の期待も高まっている。2014年8月に施設が閉鎖してから約10年、中心市街地の活性化に向けて両者が歩み寄ったことで、課題はあるものの止まっていた時間がいよいよ動きだそうとしている。(報道部・石川鉄也)

  状況打破へ苦渋の選択

   市と大東開発の交渉はこれまで平行線をたどってきた。市は土地の無償譲渡を求めたのに対し、同社はエガオにある5筆の土地を集約し、事業を展開する考えを示し、無償譲渡に応じることはなかった。23年6月には、岩倉博文市長と三浦社長が「トップ会談」に臨んだが、折り合いはつかなかった。

   こうした状況を打破すべく、市は同程度の土地を交換する方針に転換。いわば苦渋の選択に踏み切り、今年5月23日に行われた非公式のトップ会談で基本合意にこぎ着けた。同社は合意に至った理由について「お互いに譲れない立場がある中で、市担当者のご尽力と市長のご英断をいただけたこと」を挙げ、市の決断に対して「当社も応えなくてはいけない」としている。

  入り交じる期待と懸念

   6月4日の正式合意を受け、同13~21日に開かれた市議会定例会は、一般質問で4会派6人が取り上げ、特別委員会でもやりとりが白熱した。合意するまでの議会論戦では、市側が「相手がいることなので、刺激をしないでほしい」と議員に促すこともあったことが背景にある。

   藤田広美議長も「質問しても答弁ができない状況が続いていた」とこの10年を振り返り、「市民から『市は何もしていない』と言われることもあったが、苦労してここまでやってくれた」と市に一定の評価。他の議員からも「まちづくりをよい方向に進めてほしい」と再開発を後押しする声が多く上がる。

   一方、同社を除く元地権者は無償譲渡に応じたことから「もろ手を挙げて喜べない」といった指摘もあり、そもそも「10年は長かった」との厳しい声もある。岩倉市長は答弁で「本来あるべきではないかもしれない」とした上で、「あと2年の任期で道筋だけは付けておきたかった」と述べた。市は粘り強い交渉を経ての苦渋の決断に理解を求めつつ、元地権者に丁寧な説明を続ける考えだ。

   膨大な解体費用課題に

   市は3月、エガオ周辺などを再整備区域に設定した基本構想を策定。事業がスケジュール通り進めば、今年度中に再開発を担う民間事業者を公募し、25年度に基本計画の作成、26年度にも建物の解体に着手する。

   しかし、近年の物価高騰などもあり、費用は膨大にかさむ懸念がある。市が試算した解体費は現時点でエガオが約15億円、旧駅前バスターミナルが約10億円。市は民間事業者の提案を基本に、公費解体も視野に入れながら、国の補助金や交付金の活用も模索する。

   ようやくスタートの一歩を踏みだすきっかけが見えたエガオ問題。市は「今回の判断が市民、元地権者にとって最善の選択だったと思っていただけるように進めていきたい」との言葉を繰り返す。ただ、市民の理解を完全に得られている状況とは言い難い。市は市民への説明をより丁寧にしながら、これら課題と向き合わなければならない。

   エガオ問題 2014年8月に旧商業施設「苫小牧駅前プラザエガオ」が閉鎖。市は駅前再開発を目指し、土地と建物の権利集約を進め、28法人・個人が市に無償譲渡したが、大東開発のみ応じなかった。19年には同社が市に損害賠償を求める民事訴訟に発展し、市が全面敗訴した。

   一方、市は今年2月、JR北海道と駅周辺の再開発に向け、旧商業施設「苫小牧エスタ」の一部や自由通路を市が取得することで合意。3月にはエガオや旧駅前バスターミナル周辺約3.3ヘクタールを再整備区域にホテルや商業スペース、子育て支援施設などを配置する基本構想を策定するなど準備を進めてきた。

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