白老町に約30年ぶりに”まちの本屋”の灯がともった。町地域おこし協力隊員、羽地夕夏さん(25)が町で唯一の書店となる「またたび文庫」を大町で3日に開店したもので、クラウドファンディングで150万円を超える寄付を集め、築50年ほどの建物を店舗に改修した。町民は「本を介して世界と出合える場になってほしい」とエールを送る。
同店の売り場面積は約45平方メートルで、木の風合いを生かした内装。話題の小説など新刊約800冊を扱い、学術書などの専門書や児童書、実用書の古書も約1000冊置く。広さ約5平方メートルの読書室を備え、1時間の利用料は町民500円、町民以外1000円、学生は一律100円。営業時間は金~月曜日の正午~午後6時。火~木曜日は休む。
町にはかつて、旧白老郵便局の建屋を改修して開かれた「田辺真正堂」が、唯一の書店として大町にあった。町民に親しまれていたが、同店を親族が経営していた米穀店経営の田辺真樹さん(63)=町大町=によると、約30年前に閉店し、書店は町から姿を消した。その後はJR白老駅前付近の文具店「田辺本店」が一部書籍を扱い、取り寄せにも応じていたが、約5年前に閉じたという。
羽地さんはこの状況に、「本は人間にとって、豊かな心を肥やす存在。それを届ける書店は地域に不可欠」と、同町での書店経営を決意。大町の空き店舗を購入し、昨年10月から自身や仲間の手で改修してきた。1月からは住民との意見交換の場を数回設け、求められる書店の在り方を模索。開店に備えた。
初日は、町内の喫茶店のコーヒーを無料で振る舞ったほか、古書の格安セールを実施。ゴールデンウイーク(GW)で来町した観光客や町民が来店し、本を相手に静かな時間を過ごした。来店した町民は「いい本とつながる場が町に生まれた」と喜び、羽地さんは「町民の皆さまから必要とされる本屋でありたい」と前を向く。
2階は24平方メートルほどの広間で、1時間1000円でレンタルする。店舗部分も営業時間帯以外に1時間2500円で貸し、いずれもサークル活動やイベントで利用してもらいたい考え。店でも随時イベントを企画し、19日は銅板を使ったワークショップ、25、26両日は能登半島の日本酒を飲んで益金を被災地に寄付する行事を予定している。