五所川原

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  • 2024年4月10日
五所川原

  小学4年生の時に、男子の転校生が1人、やってきた。背丈は同じぐらいだったが、細い体は筋肉の塊で、相撲が強かった。担任の先生が「Y君は、青森県の五所川原という所から来ました」と紹介した。初めて聞く地名だった。地図帳を広げて地名を探し、場所を確かめた。

   何の時だったか、お礼を言われたことを覚えている。「○ちゃんは俺のなまりを笑わなかったな」。まねされたり、笑われるのがつらかったようだ。数年後に炭坑が閉山した。学校はなくなり、級友の多くは音信不通になってしまった。

   30年ほど前、勤務していた支局に男が訪ねてきた。すぐ分かった。Yだった。

  支局のある町は彼の営業担当区域。仕事先で私の名前を聞き、「もしや」と思って訪ねたのだとか。「いつかまたゆっくり」と別れたが、いつかやまたに会えた人は少ない。新聞のおくやみ欄にYの名を見つけたのは、その数年後のこと。

   先月の大相撲春場所。新入幕で初優勝したのは五所川原出身の力士。全国紙のスポーツ面には「さっぱどしたじゃ」と津軽弁の大きな見出し。辞典「津軽の標準語」によると、「さっぱど」は、さぱど(さっぱりと)の強調語。Yの笑顔を思い出した。4月も10日。新しい学級や職場に新しい友達はできたろうか。(水)

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