坊ちゃん列車

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  • 2024年3月29日
坊ちゃん列車

  運転士不足などで昨秋運休した松山市の観光列車「坊っちゃん列車」が再開したという。夏目漱石の小説に登場し愛称となった蒸気機関車(SL)。明治から戦後まで走ったが、平成に伊予鉄道がディーゼル式で復元し復活させた。作品ゆかりの列車となれば漱石ファンでなくとも気になる。愛媛を訪ねる機会があれば乗るなり写真に撮るなりしたくなる。

   「坊っちゃん列車」で思い出すのは穂別の富内を走った時のことだ。こちらは松山の金属加工業者が3年がかりで復元したSL。宇宙飛行士の毛利衛さんが助言した空に延びる線路を持つ「富内銀河ステーション」の旧国鉄富内駅のレールにもう一度、列車を走らせて汽笛を鳴らそう―と2001年、穂別の人々が漫画家の松本零士さん(故人)の支援も得て実現した夢のプロジェクト。資金以上に難題だったのは肝心の列車を調達し、富内に運び入れることだった。人々がハードルの高さを痛感した時、鉄道ファンを介して松山の経営者に話が伝わり実現に向かった。この年9月、一日だけの汽笛の復活に立ち合えた巡り合わせに高ぶった気持ちで取材したことを忘れない。一人の真剣な熱意は、確かに伝播することを実感した。列車はその後、乗車した人たちの「銀河鉄道」を旅している。(司)

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