「強盗に襲われても、誰も助けてくれないなんて」内山安雄の取材ノート

  • 内山安雄の取材ノート, 特集
  • 2023年10月27日

 昨今は日本もずいぶん物騒になったといわれる。だが世界的に見れば、これでもまだ相対的にかなり安全なほうだろう。

 アジアの国々は、日本に比べれば治安があまりよくないといえるかもしれない。そのアジアを旅していて白昼堂々、公衆の面前で強盗に襲われたらどうなるか? その場に居合わせた人々は助けてくれるのだろうか?

 この私、恥ずかしながら海外で何度も強盗にあっている。ちょっとお間抜けな私のタイでの実体験を紹介しよう。

 首都バンコクのにぎわいを見せる下町の商店街――。

 いきなり横合いからナイフを突きつけられた。相手は小柄な男で、強盗にしては迫力がないというか、頼りない顔つきの若者だ。

 これならなんとか逃れられるかもしれないと思った。そこで私は近くでたばこをくわえていた定食屋のオヤジにすがるような視線を投げかける。何かアクションを起こしてくれるかと思いきや――。

 オヤジは、強盗が手にしたナイフを見て目を丸くして、何食わぬ顔で明後日(あさって)のほうを向いてしまうではないか。

 私は強盗ともみ合いながら八百屋の店先にフラフラと迷いこんでいく。涙目になって、店番の女将(おかみ)さんに助けを求める。だが、ああ、無情である。

 女将さんは脱兎(だっと)のごとく店から飛び出し、はるか遠くまで逃げていく。そして物陰から恐々とこちらをのぞいているのだった。

 道行く大勢の人々は気づいているのか、いないのか、誰もが無関心というか、見て見ぬふりをしているではないか。あきまへん。どうにもなりません。命あっての物種、全てを強盗に差し出すしかない私であった。

 よく考えても考えなくても、冷静になってみれば、これがアジア流、アジアの常識と納得するしかない。強盗の現場を目撃して、下手に関われば、自分が犠牲者になりかねない。騒ぎ立てたり、警察を呼んだりしたら、あとで犯人に報復されかねない。よって触らぬ神に祟(たた)りなしというわけだ。

 日本では昨今、厄介なこと、面倒なことには目をつぶる、見て見ぬふりをするのがごくふつうになっている。が、そのことにかけてはアジアの国々はもっと徹底している。

 アジアを旅する以上は、強盗などの犯罪に遭遇しても、人は助けてくれない、自分の身は自分で守るしかない。そう肝に銘じたほうがよさそうだ。

 ★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。

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