北海道に来る前、東京の四ツ谷という町に暮らしていた。四ツ谷には映画「君の名は。」のメインビジュアルとなっている有名な階段が家の近くにあり、国内のみならず海外からも多くの人が訪れていた。その映画では、都会と田舎の男女が入れ替わって生活をするシーンが出てくる。
四ツ谷にいた頃の僕は映像制作会社に勤めており、朝から晩まで、いや朝から朝まで働くことも少なくない生活だった。眠気でふらふらになりながらシャワーだけを浴びようと家まで帰る朝方、その階段の近くを通るたびに「誰でもいいから入れ替わりたい」とよく考えていた。そんな生活はそう長く続くわけもなく、結局2年で体調を崩してしまい会社を辞めることになる。
最近少し寝不足気味になっていたり、仕事でカメラを触る機会があったりしたことで、先のような新卒社会人の2年間を思い出す。どのシーンを切り取ってみても常に疲れていた当時だったけれど、そんな日々の中で人から受けた優しさはたくさんある。中でもなぜかよく思い出すのは、ささいな談笑の時間であったり、おごってもらった一杯のコーヒーだったりする。「頑張れ」という言葉以上にそういった景色を思い出すのは、当時の僕にとって言葉以上にその優しさが力になったからだと思う。
公営塾に通う高校生が日々奮闘する姿を見る立場になって、そんな言葉にならない応援を僕も手渡していきたいと思うようになった。きっとあの時コーヒーをおごってくれた人もこんな気持ちだったのかもしれない。誰も気付かない、小さな入れ替わり。
(厚真町地域おこし協力隊)