聖月流日本吟剣詩舞道会厚真支部の会員で80歳を超え、両耳が聞こえないというハンディを背負いながら、扇を使った踊りを続ける人がいる。厚和地区に在住の鈴木百合子さん(82)。練習熱心な努力家でステージでは難聴を感じさせない踊りを披露するが、「皆さんに支えられて楽しくやっています」と言う謙虚な姿に周囲も応援のまなざしを向けている。
今月10日に町総合福祉センターで行われた支部の創立20周年を記念した審査会。背中をポンと押すと、一本の線に導かれるように一人、明かりがともされたステージの中心に移動し、扇子を片手に華麗な舞を披露。この時、耳から伝わる情報はすでになく、観客席の向こうから出される先導役の動きと体に染みついた感覚のみで堂々とした型を見せる。演舞を終えると、会場内が温かい雰囲気に包まれた。
2008年に支部へ入会し、全道、全国大会を舞台に活躍する若手らとともに腕を磨いてきた。しかし75歳を過ぎると、体に異変が起きる。少しずつ音が聞き取りにくくなり、今では補聴器を付けても音はぼんやりとしか聞こえていない。
「いきなりだとショックを受けると思うけれど、徐々にだったから。極端な心境の変化はなく、すんなり受け入れることができた」。同時に踊りを続けることへの諦めもあったが、周りの支えもあって80歳を超えた今でも堂々とステージに立つ。
支部長を務める藤江利律子さん(79)の後押しもあって、19年7月には師範の免許を取得。藤江支部長も「資格を取ったら頭がさえてきたのか、『看板に恥じないように』と踊りも覚えるようになった。練習からすごく努力しているけれど、普通の人ならできない」と絶賛するほどだ。
今では「曲が聞こえないから、勘で踊っている」と笑って話す鈴木さん。「支部長をはじめ、若い方がつまずいた時には支えてくれるような優しい会でほんわかとしているので、続けられる。そうでなければ情熱があってもできない」と周囲のサポートに感謝する気持ちは忘れない。「年齢を重ね、だんだん覚えられなくなってきた。でも、体が動く元気なうちは続けたいと思っている」と照れくさそうに笑った。