東京電力福島第1原発の処理水海洋放出で漁業権が侵害されるなどとして、福島県内の漁業関係者ら約150人が8日、国と東電を相手取り、放出差し止めを求める訴訟を福島地裁に起こした。処理水放出を巡る集団提訴は初めて。
訴えたのは、岩手、宮城、福島、茨城、千葉、東京、新潟各都県の住民や漁業関係者。
訴状などによると、処理水の放出は漁業権を侵害するほか、市民が平穏に生活する権利を脅かすと主張。放出を認めた国の決定は違法だとし、原子力規制委員会が行った放出計画の変更認可と設備の使用前検査の合格を取り消すとともに、東電には放出中止を求めている。
処理水は、2011年の原発事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却などで発生する汚染水を多核種除去設備(ALPS)で浄化処理した水。化学的性質が水素と似た放射性物質トリチウムが取り除けず残っているため、大量の海水で薄めて沖合約1キロで海へ放出する。
8月24日に放出が始まると中国が反発。日本産水産物の全面禁輸に踏み切ったことから、政府は総額1000億円超の水産業支援を決めた。
弁護団の共同代表を務める河合弘之弁護士は提訴後の報告集会で「処理水の放出は原発事故の被害者に追い打ちをかける行為だ」と訴えた。
原告の大賀あや子さん(50)は「既成事実によって放出に賛成しない人の声がないがしろにされている。原発の敷地や中間貯蔵施設での陸上保管も可能なのに、なぜ海洋放出をするのか」と話した。