閉めたい私、開けたい夫 川田(かわた)幸香(さちか)

  • ゆのみ, 特集
  • 2023年9月5日

  今年は毎日暑い日が続いているが、私は基本的には寒がりだ。対して、夫はとても暑がりだ。夜になると、窓を閉めて寝るか、開けて寝るかで小さなバトルが勃発する。この時、お互いに自分の意見を主張し、人の感じ方や考えは、それぞれ違って当然であるということなど、これっぽっちも考えず、私も夫も持論を展開する。日によりどちらかが折れて、決着がつく。

   これは、わが家の日常のほんの一こまで、言ってしまえば大した話ではない。なのに、なぜ、この話を書いたかと言うと、日常には価値観の違いがあふれているということが、分かりやすいエピソードだと感じたからだ。夫に「共感」はできないが、「自分が知らない感じ方や考えがあることを知る」ことはできるだろう。

   認知症の症状のある方のお宅を訪問すると、真夏なのにストーブをたいていたり、真冬のような厚着をしていたりすることがある。熱中症などの心配もあるので、そのままにするわけにはいかない。しかし、正論を言っても相手には理解はしてもらえない。そもそも、その「正論」は相手にとっては「正論」ではないかもしれない。認知症の症状により今の季節が分からなかったり、皮膚感覚の異常で寒さを感じていたりするのかもしれないからだ。相手が何を見て、感じ、考えているのかを私は知らないのだ。

   なので、相手について知ったふりをせず、知らないことばかりだということを承知した上で関わらなくてはならないと思う。しかし、近しい人になるほどそれは難しく、冬になれば、わが家では暖房の設定温度でまた小さなバトルが勃発するのは目に見えている。

  (コミュニティナース・苫小牧)

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