2018年9月6日に発生した胆振東部地震から丸5年の日を前にした2日午後、厚真町総合福祉センターで音楽で犠牲者の冥福を祈る「献歌」が行われた。シンガー・ソングライターで札幌市出身の半崎美子さん(42)と同じく地元出身の小寺聖夏さん(27)が復興への思いを込めて歌を披露し、参列した約150人の町民を元気づけた。
■自然の蘇生を知るから未来を耕し続けられる
町は震災から5年に合わせ、半崎さんに復興応援ソングを依頼。この日は完成した曲「大地の息吹」を初披露した。
”風と生きる穂となれ 希望の苗はいつの日も 大地を掴(つか)んでいる(中略)果てぬ未来を 私達は今日も耕す””明日へ進む歩を共に”
制作に当たり、かつてむき出しになっていた山肌の土砂が撤去され、緑が芽吹き、田んぼは元通りになって黄金色に輝く稲穂を見て、「一人ひとりの5年の歩みは違うが、自然が蘇生する姿はこの地に息づく希望」と肌で感じた。「時間はかかっても、自然は必ず戻ってくると厚真の人たちは知っている。だからこそ、日々を、未来を、耕し続けることができる」。そういった町民の思いを歌詞で表現した。
そして、締めくくりはサビの”希望の息吹はここから 大地に輝く”
耳を傾けた本郷地区の宮腰芳男さん(80)、芳子さん(80)夫妻は「歌詞がはっきりと分かって優しい歌でしたね。励まされている気がした」と表情を和らげる。宮坂尚市朗町長も「自然に口ずさめる歌。頂いた誇りを胸に、またあすに向かって生きていこうと思わせてくれる」と喜んだ。
演奏後は町民と共に涙を流し、これまでの思いを共にかみしめた。震災から1年後の追悼式でも歌を披露しており、「この地で町民を前にしてお届けして、やっとこの歌が完成した。私も一歩一歩、歩みを進めていきたい」と思い出の地で気持ちを新たにしていた。
■独りの怖さから気付く周りの人の心の温かさ
小寺さんは、地震が発生してからちょうど1年たった2019年9月6日にリリースした復興ソング「羽」を熱唱した。発災当初、変わり果てた故郷を自らの目で確認し、町民の体験談を聞いて作った9分を超える大作で、途中、涙で声を詰まらせながら、歌い上げた。
曲の制作に当たり、当初は批判されることも頭をよぎった。ただ、会場で曲を聴いて涙する町民の姿に「自分が歌うことで、思い出して泣いてくれる人もいて、地震を知らない人にも伝えられる歌をつくってよかった」と胸が熱くなったという。
震災からの5年について「ついこの前のことのよう。長いようで短かった」と話し、「厚真町の良さを改めて感じる年月だった」と振り返る。「何年たっても、失ったものを変えることはできないけれど、歌詞に”一人の怖さを知って初めて人の温かさを知った”とあるように、みんなで温かいものをまたつくっていきたいという気持ち」と意欲を見せ、これからも歌で多くの人に思いを届ける。