(下)次世代にどう伝える 問われる地域の役割

  • 平和の誓い明日へ, 特集
  • 2023年8月18日
拓勇東町内会主催のサマーキャンプで、出身地アフガニスタンの現状を伝えるナジャさん

  「ゴーン、ゴーン」

   終戦記念日の15日正午すぎ、苫小牧市ウトナイ南の真宗大谷派不退寺の境内に何度も重厚な鐘の音が鳴り響いた。

   1945年8月15日、昭和天皇が詔書を読み上げる玉音(ぎょくおん)放送が流れた時間に合わせ、地域の家族連れや高齢者ら約50人が次々と撞木(しゅもく)で鐘を突き、恒久平和へ祈りをささげた。

   「平和の鐘突き」と銘打ち、鐘楼堂(しょうろうどう)が落成した2016年に始め、コロナ下も続けてきた事業だ。

   子どもたちが楽しげに鐘を鳴らす光景に、新保宗証副住職(41)は「今は鳴らす意味まで知らなくてもいい。いつかこの経験を思い出した時、それぞれ考えてもらえれば」とほほ笑んだ。

   副住職の長男で物心付く前から参加しているというウトナイ小5年生の宗壽君(10)は、鐘突きに集まる人数がコロナ前並みに戻ったことを喜び「人が多い方が、平和の実現に近づく気がする」と笑顔を見せたが、ロシアによるウクライナ侵攻長期化の話題に触れると「いつまでやっているのか。早くやめてほしい」と表情を曇らせた。

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   平和を守るため、地域にできることは何か。戦争を肌身で知る世代が減りゆく今こそ、真剣に考えていかなければならない。市内の拓勇東町内会は今年初めて、国際理解を通じて平和を守る人材を育てる子ども向けサマーキャンプを企画。その中で、小中学生30人が市内在住の外国人3人の母国を紹介する講話に耳を傾けた。

   宿泊先の空知管内栗山町の雨煙別小学校コカ・コーラ環境ハウスで講話したアフガニスタン出身のナジャ・ハミディさん(35)は母国の代表的な家庭料理などを紹介した後、武装勢力タリバンによって女性の通学が禁止されるなどの過酷な現状に言及。「日本は治安が良い」と訴えた。

   キャンプには、ナジャさんの長女カデリア・カズナヴィさん(11)と長男のアリ・カズナヴィ君(8)も参加し、子どもたちと交流。青翔中3年の冨野亜胡さん(15)は「カデリアさんから(母国では)学校に行けず毎日家の手伝いばかりで、(戦禍に)おびえながら暮らしていたと聞き、なんでそうなったのかに関心を持った。もっと実情を知る機会があれば、この問題を深く考えられるのに」ともどかしそうだった。

   同町内会の佐藤一美副会長(53)は「今まで聞き流していたアフガニスタンやタリバンなどのニュースにも関心を持ってくれたらと願う。未知なことを無視せず、知ろうとする努力の大切さを伝えたかった」と強調。戦争を知らない世代も「世界で今も絶えない戦禍に目を向ける中で、平和について考えることはできるはず」と述べた。

   ※(この企画は報道部・姉歯百合子、河村俊之が担当しました)

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