大好きな母が教えてくれたこと 石澤(いしざわ)ともみ

  • ゆのみ, 特集
  • 2023年8月1日

  夏は嫌いです。8月生まれなのに暑さに弱く、常に体調不良。そして13年前からは、悲しい季節になりました。親として、何でも話せる親友として、大好きだった母が亡くなったから。

   母が倒れたという父からの連絡で実家へ向かい、救急車に搬送される前の母に呼び掛けると、うんうんとうなずきました。救急隊員さんから同乗を勧められましたが、ここは叔母に頼み、私は今後の入院手続きなどを考えて自家用車で病院へ向かいました。

   倒れた原因が不明だったので、病院では何時間もいろいろな検査を受けました。病室へ向かう時、やっと会えた母は、私に「あなたどなた」とか細い声でつぶやき、これが母との最後の会話になりました。

   数時間後、私が1人で最期をみとりました。なぜ救急車に同乗し、話さなかったのか? なぜ、看護師さんに言われるがまま一度帰宅したのか? 医師の「脳梗塞かも」という言葉に違和感を持ちながら、なぜ病院だから安心と思ってしまったのか。後悔と悲しみから自分を責め続けました。

   数カ月後、「このままじゃ駄目。母が悲しむ」。そう目が覚めて、それから自分のために頑張れる仕事をしようと決め、エステティシャンになりました。

   数年後、母との会話を思い出す時には、母にとって願い通りの最期だったと思えるようになりました。「入院は嫌い」「父より先にポックリと」と言い、「孫を3人も見られたのが最大の親孝行だよ」と笑みを浮かべたこと。たくさん話したその時間に、母は多くのメッセージを残してくれていました。

   今はやっと、あの時はあれが賢明だったと思えるようになりました。そして、私は子どもたちに、自分の思いや願いを事あるごとに話すようになりました。何気ない会話がいつか慰めになると、母が教えてくれたから。

  (イベントプロデューサー・苫小牧)

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