鳥嶋さん(3)鈴木(すずき)龍也(たつや)

  • ゆのみ, 特集
  • 2023年7月29日

  1997年11月、苫小牧市文化会館大ホール。客席数は約500席。初めてホールで観劇をした。苫小牧の劇団群’73による成井豊(劇団キャラメルボックス)・作、鳥嶋清嗣朗・演出の「ナツヤスミ語辞典」。大きな舞台を駆け巡る多数の出演者、たくさんの照明、大音量の音楽。学校に押し付けられて見た舞台ではなく、観客を楽しませようとする出演者の、生き生きとした舞台がそこにはあった。

   料理の味に好みがあるように、舞台にもお口に合う合わないがあると思っている。そして、その舞台は「その時は」お口に合わなかった。しかしながら、終演後の観客の送り出しをする出演者たちの表情は明るく、きらきらしていた。お口に合わない舞台を見た直後は、その表情に違和感と不満があったが、数年後に鳥嶋さんとお話をした時にそれは解決する。

   彼は「演劇」の敷居を低くしようとしていたのだ。市民が演劇を見るためではなく、舞台に上がるための敷居を低くし、演じる楽しさ、演劇に関わる楽しさを知ってもらうため、舞台を作っているのだと言った。市内で舞台に関わる人は年々減少している。演劇部は高校などに数えるほどしかなく、社会人ともなると演劇に費やす時間を確保するなどは、とても困難になる。

   鳥嶋さんは、創作する現場の大変さを分かっているからこそ、たくさんのことを一手に引き受け、未来の演劇人のために人生を費やしていた。後に地元の演劇集団「4丁目劇場」の代表たちも、群’73の公演に参加していたことを知る。少なからず自分もそのおかげで今、舞台に関わることができているのだ。

  (舞台演出美術家・苫小牧)

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