白老町のアイヌ文化復興・発信拠点、民族共生象徴空間(ウポポイ)は12日、開業から3年を迎えた。国が年間入場者数100万人を目標に掲げて整備したナショナルセンターだが、新型コロナウイルス禍の影響で、今年6月末までの入場者数累計は約87万4000人。ただ、5月8日にコロナの感染症法上位置付けが5類に移行し、観光需要の増加が期待されており、体験プログラムの充実などさらなる誘客促進に力を入れている。
歌や踊りの体験プログラム充実へ
ウポポイはコロナ禍の影響で、開業は2度の延期を経て2020年7月12日、当初予定より2カ月半遅れだった。管理運営するアイヌ民族文化財団(札幌市)によると、20年度は約22万2000人、21年度は約19万人、22年度は約36万9000人、23年度は6月末までに約9万3000人。
当初はコロナ対策の入場制限や一時休業措置に加え、観光需要の著しい冷え込み、インバウンド(訪日外国人旅行者)の入国制限などを背景に、入場者数は思うように確保できなかった。同財団民族共生象徴空間運営本部の村木美幸本部長は「感染に対する緊張と不安に満ちた3年だった」と振り返る。
コロナ感染状況の沈静化に歩調を合わせ、入場者数も緩やかな増加傾向に。5月にコロナも5類に移行し、アフターコロナの動きが加速する中、3年の節目を迎えたことに「新たなスタートの機会としたい」。アイヌ文化への理解をより促そうと、体験プログラムの充実を図る。
オープン当初はムックリ(口琴)など体験の一部もコロナ対策で休止を強いられたが、「より深く学べるように歌や踊りの触れ合いを重視し、身近に感じてもらえるプログラムを強化したい」と強調。アイヌ民族の認知度を高めるため、「参加意欲や魅力を高めていければ」と気持ちを新たにする。
地域固有の伝統正しく伝える使命
ウポポイは町に変化ももたらした。開業に合わせて国道36号の拡幅など交通インフラは充実し、ウポポイ周辺では白老駅北観光商業ゾーン「ポロトミンタラ」、星野リゾート(本社長野県)運営のホテル「界ポロト」など新たな施設も続々と誕生。町民からは「町の新しい顔」として期待や歓迎の声が上がる。
一方、旧博物館時代を知る町民からは「小ぎれいになって生活のにおいが感じられない」「町民との距離が遠くなった」などの声も根強い。町内を事実上素通りする観光客も多く、ウポポイへの誘客を地域活性化につなげる仕組み、同財団や町、地域住民とのさらなる連携が求めらている。
また、アイヌ民族の歴史を正しく伝えるためには、国の同化政策で民族の尊厳を奪い、差別に遭った苦難などの情報も共有する必要がある。アイヌ文化を多くの人に分かりやすく伝える一方、地域それぞれに根付いた固有の伝統や営みなどがあり、その違いや共通性を正確に紹介することも使命となる。
同運営本部の野本正博副本部長はウポポイの今後について「各地域の伝承の力とつながりなくしてありえない」と強調し、各地とのさらなる連携強化を考える。白老アイヌ協会の山丸和幸理事長は「目標の100万人はあくまで目安。数にこだわることなく文化伝承という本義のみに向かって、若手の人材育成などに注力を」と願う。