1997年10月。苫小牧中央ボウル1階。今は苫小牧シネマトーラスになっているその場所は、がらんとした空きテナントだった。その場所に暗幕が張られ、床に黒塗りのベニヤ板、お酒のカートンとござでひな壇が出来上がっていく。紛れもなく暗黒の空間、劇場がそこにあった。「小劇場」と言うらしい。
ひょんなことから出演することになった「苫小牧4丁目劇場第2回公演~徒雲(あだぐも)」。舞台と最前列の客席に段差はなく、最前列の観客と舞台との距離は「0センチ」。出演者も客席も、互いの息遣いが聞こえるほどの小さな空間で初舞台を踏むことになる。
芝居が始まり、自分のシーンで初めての登場。とても近い。芝居で舞台前まで移動してしゃがむと、観客と同じ目線になる。観客の顔が見え、目が合ったかのように錯覚する。緊張で足がすくむが、稽古を積み重ねた自身の口からはしっかりせりふが出る。動ける。初舞台の緊張はあったが、何とか本番を終わらせていった。
そして数日間にわたり公演が上演され、千秋楽での出来事。相手の女優が泣くシーンで、女優の目から初めて涙が出たのを見た瞬間、衝撃が走った。見事せりふをかむ。終演後、袖で突然涙があふれてくる。終わった安堵感なのか、感動なのか、悔し泣きなのか。
会場から観客がいなくなり、そのまま打ち上げが居酒屋で始まった。その席で、どうやら市内には他にも社会人劇団があり、次月に公演が行われることを知る。そう、それが鳥嶋さん主宰の劇団「群’73」、11月上演の「ナツヤスミ語辞典」だった。
(舞台演出美術家・苫小牧)