祖父母の残した海沿いの古い木造アパートが、2013年に役目を終えた。当時で築40年近くになっており、どうせ取り壊すならと2階海側の内壁をハンマーでぶち抜いた。すると、今まで壁で見えなかった所から、とても美しい夕なぎの海のパノラマが目に飛び込んできた。この場所はまだ何かの役に立てる可能性があるように感じて、建物は取り壊さずに傷んだ柱を取り換えるなどしてリフォームをすることにした。
私自身が不登校当事者だったので、いろんな理由で学校に通えない子が来ることができる学びやにしようと思い、名前は百人一首の聖地である滋賀県の近江勧学館から拝借し「いぶり勧学館」と決めた。ところが地域の子どもたちと接するうちに、不登校の子と同じように、学校に通っている子もたくさん思い悩んでいることに気付かされた。
魚類学者の”さかなクン”の著書「さかなのなみだ」によると、魚の世界にはいじめがあるようだ。広い海では自由に泳いでいる魚が、狭い水槽に入れられるとみんなで1匹を攻撃し、その1匹を他の水槽に移しても、残った魚の中からまた1匹がいじめられるようになるという。
いじめは人間の子どもたちの通う学校にもある。この本と同じように、学校の教室を狭い水槽のように感じている子が多いためのように思えてしまう。伸び伸びとした広い海を眺め、水を得た魚のように遊び、井戸水や薪といった自然の恩恵を得た心豊かな暮らしを体験できる。そんな子どもたちのわくわく活気にあふれる環境を、不思議とこの場所も望んでいる気がする。
(いぶり勧学館館長・苫小牧)