若いころ先輩記者から教えてもらった話。ある幼稚園でみんなで歌を歌っていると、ある男の園児が泣きだした。
先生が歌をやめて園児に「どうしたの?。具合が悪いの?」と問い掛けると「何でもない」とケロっと答えた。気を取り直して再び歌い始めると、また園児の頬から涙があふれ出る。同じ歌詞に泣きだす不思議。
「これはただ事ではない」。先生が曲を止めて保健室へ連れていく。心配なのでしつこく園児に聞くと「いい歌なので、この歌を聞くと泣けてくる」と答えたという。
先輩記者は「ちょっといい話だと思わない? 感動的な人の生き死にや大きなスポーツ大会などの美しい読み物もあるが、こんな小さな話を敏感に感じて記事を書ける記者になりなさい」と諭された。
当時は「ほうほう」と聞いていた。確かに記者をしていると、心に響く人間や言葉、話題にぶつかることもあるが、記事にならないような身近で小さな話題が琴線に触れるような取材は探してもそうそうあるわけもない。
何年記者を経験しても、吸収力は失うな―とも教わった。その意味が最近になってようやくぼんやり分かり掛けてきたかもしれない。(高)