脚本の評価が高い映画なので、せりふやシーンの柱を特に意識して見た。是枝裕和監督の最新作「怪物」。シナリオを手掛けた坂元裕二さんが、カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した。
坂元さん脚本のテレビドラマは弱者や孤独な人に焦点を当てた力作が多く、殺人事件の加害者家族と被害者家族が出会う物語などは秀逸だった。夫婦そろって坂元ファンで、公開日をカレンダーに書き込み心待ちにしていた。同じファンなら分かってもらえると思うが、田中裕子さんをはじめとする役者の顔触れを知った瞬間からいや応なしに期待感が高まった。物語に関する記載は割愛するが一つの事象に対し人が見ていない、見えていない部分がいかに多いかを浮き彫りにした作品で、坂元さんの真骨頂である登場人物の何気ない会話の軽妙さも健在だ。
テレビドラマ研究家が「他人の気持ちは分かり得ないけど、想像することはできるという忘れがちなことを思い出させてくれる」と坂元作品を評していたが本作もしかり。同映画祭で怪物は性的マイノリティーを扱った秀作に贈られるクィア・パルム賞も獲得した。苫小牧市は男女平等参画都市宣言10周年。鑑賞はアイデンティティーや生きやすい社会を考える契機にもなるかもしれない。(輝)