将棋の藤井聡太さんが最年少20歳10カ月で7冠を達成した1日、「うれしい」と声を出して涙を流す白髪の男性が、テレビに映った。外山滋比古著「老いの整理学」(扶桑社新書)を思い出した。
笑うことや泣くこと、怒ることなど感情の発散が老化の防止やストレス解消に良いらしい。泣くのはみっともない。特に「男は涙を見せるものではない」と、「泣くことを封じられた男性、特におじいさんはどれほど寿命を縮めたことか。心を鬼にしてでも泣いて」と外山氏。
末っ子の泣き虫だった。10歳頃、兄に「すぐ泣く」と指摘されて泣くのをやめた。以来「いつしかに泣くといふこと忘れたる 我泣かしむる人のあらじか」と石川啄木の歌を口ずさみながら、乾いた目をして生きてきた。しかし老いが進んでこの数年、涙腺の緩む回数が増え、底抜けのすがすがしさに改めて気付く。
問題は何に涙を流すかだ。去年の春以降はテレビに映るウクライナの子どもや兵士の姿、爆撃されて燃え、崩れる住宅の映像に、日に何度でも涙がにじむ。そして涙の後には必ず、冷酷に薄笑いする侵略者たちの顔が見えてくる。戦火が収まるのはいったいいつになるのだろう。泣いてはいられないと考えさせられる。泣くのも難しい時代が、まだ続く。(水)