〈アルバイト 電車で横浜まで 帰る頃は午前0時…〉。若き日の浜田省吾さんが代表曲「路地裏の少年」を大型スクリーンで歌っている。バブルが終わろうとしていた1988年の夏。5万5000人を集めた静岡県での野外ライブが、35年の歳月を経て映画でよみがえり、全国各地で公開されている。2日間上映された札幌のシネコンもほぼ満席。高画質と大音量の映像に圧倒された。
広島フォーク村出身。先輩の吉田拓郎さんの全国ツアーのバックを務めたロックバンド・愛奴のドラマーとして事実上、プロデビュー。ソロに転身し、テレビに頼らず、地道なライブ活動でファンを拡大。ビッグアーティストになった。
浜田さんの父は広島で被爆した。男と女の微妙な関係、人生をテーマにした歌のほか、現在の戦争や環境問題を予見した楽曲も少なくない。〈過ぎ去った昔の事と 子供達に何ひとつ伝えずに この国 何を学んできたのだろう〉。名曲「風の勲章」でこうメッセージを送る。
ゼレンスキー大統領も来日した広島サミットが幕を閉じた。理想と現実の乖離(かいり)が指摘されるが、理想に近づける努力を忘れてはいけない。「核なき世界」への道。それは広島生まれの浜田さんが祈り続ける願いでもある。(広)