若い頃は、「上司の話を聞く時はメモぐらい取れ」という言葉をよく耳にしたが、私の場合は上司に限らずどんな場面でも基本的にメモを取る習慣がない。
30年前、私は関東圏にある日銀の支店に勤務し、金融経済動向の調査担当者として、支店長が地元企業の経営トップと面談する時には、メモ取り役として同行し報告書を作成していた。
そんなある日、地元企業を訪れた際に支店長が突然、「メモ帳は車に置いていきなさい」と言った。「ご冗談を!メモ帳がなくてはメモは取れません!」と言う間も与えられず、結局、手ぶらのまま後をついて行ったのだが…。話の内容はほとんど頭に入らず、面談は終了。
しかも、「報告書はあすまで。今月の面談はあと15先」と追い打ちをかけられ、しばらくは「無理、駄目、しんどい」が口癖になるほど、報告書作成に苦労したことが思い出される。
ただ、当時は支店長に不満を抱いていたが、慣れてくると記憶するこつが分かるようになり、聞き取る力が付いてくると、不思議と文章を書く力も備わり、さらに何も見ずに人前で話すこともできるようになっていった。
振り返ってみれば、支店長には仕事の基本である専門的知識や理解力、思考力、文章力を高める教育を実践していただいた。そのおかげで、「事前準備を怠らず、何事も頭の中で常に組み立て整理しよく考える」という仕事のスタイルが身に付き、さまざまな場面で大いに役立っている。
支店長には感謝の言葉しかない。(苫小牧信用金庫常勤理事)