1966年に静岡県でみそ製造会社専務一家4人が殺害された「袴田事件」で、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さん(87)の再審開始を認めた第2次請求差し戻し審の東京高裁決定について、東京高検が不服として、最高裁に特別抗告する方向で協議を進めていることが16日、関係者への取材で分かった。
審理は、2014年の静岡地裁決定でいったん再審開始が認められて釈放されながら高裁で覆され、最高裁が審理を差し戻す異例の展開をたどった。第2次請求から約年がたつ中、再び最高裁で審理する公算が大きくなり、さらなる長期化は避けられない見通し。
事件の約1年2カ月後にみそタンクから見つかった「5点の衣類」が、袴田さんの犯行着衣と言えるかが争点だった。差し戻し審では付着した血痕の色調変化に絞って審理され、高裁は地裁に続き、捜査機関による証拠の捏造(ねつぞう)の可能性に言及し、再審開始を認めた。今月20日が特別抗告の期限で、高検は「主張が認められず遺憾」との談話を公表していた。
今月13日の東京高裁決定は、1年余りみそ漬けされると衣類の血痕の赤みが消失するとした弁護側の実験結果について、「専門的知見によって化学的メカニズムとして合理的に推測でき、新証拠と言える」と認定した。
その上で「5点の衣類に付着した血痕に赤みが残っていたことは1年以上みそ漬けされていたとの確定判決が認定した事実に合理的な疑いを生じさせる」と判断。「事件から相当期間経過した後に第三者がタンク内に隠匿した可能性が否定できず、事実上、捜査機関の者による可能性が極めて高い」と言及し、他の旧証拠でも袴田さんの犯人性を認定できないとして、再審開始を認めた地裁決定を支持した。
検察側は弁護側の実験に関し、「色調変化に影響する要因が網羅されていない。特定条件下の化学変化を検討しているにすぎず、メカニズムの解明は困難だ」と主張。地裁決定を取り消し、袴田さんを拘置所に再び収容するよう求めていたが、全面的に退けられた。