全国で相次ぐ強盗事件で、逮捕された実行役の多くは「闇バイト」への応募をきっかけに犯罪に加担したとみられる。「稼げる案件あります」。SNSには高額報酬や即日払いを強調する甘い誘い文句が並ぶ。過去には殺人のために実行役が集められた事件もあった。実態を探った。
記者が2月上旬、SNSで「闇バイト」と検索すると、「稼げる案件あります」などと勧誘する投稿が多数見つかった。「興味あります」とメッセージを送ると、わずか数分で返信があり、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」に誘導された。
手慣れた様子で、手続きの流れを説明された。問われるままに年齢や住んでいる都道府県を伝えると、「仕事」について伝えられた。「お客さんの家でキャッシュカードを受け取るだけ。時間は2~3分」。特殊詐欺の「受け子」の勧誘とみられる内容だった。
逮捕されるリスクについて質問すると、不安払拭(ふっしょく)を狙うかのような返信が即座にあった。「逮捕者は1年8カ月出ていない。指示違反をしなければ怖がることはない」 「仕事」に必要とみられるスーツや無線イヤホンを持っているか質問される場面も。被害者のキャッシュカードとすり替えるためか、所持の有無を問うリストの中には「プラスチックトランプ(未開封)」との項目もあった。
記者が素性を明かした上で「話を聞きたい」と伝えると、「こっちも仕事なんでね」との返信があり、数秒後に全てのチャット履歴が消えた。
インターネットを使った犯罪の実行役募集は名古屋市で2007年、闇サイトで知り合った男3人が会社員の女性を拉致、殺害した事件をきっかけに大きく注目されるようになった。
ネット社会の問題に詳しい東京都立大の星周一郎教授(刑法)によると、闇バイトは募集するだけでは犯罪にならないといい、「無くならない理由の一つだ」と話す。一方で、応募者に対しては、「一度手を染めたらしゃぶり尽くされ、使い捨てにされる。簡単に報酬だけもらえて逃げられるような話ではない」と警鐘を鳴らす。
警察庁によると、全国の警察は昨年1年間、強盗や特殊詐欺の実行役などを募る闇バイトの書き込み延べ約5000件に対し削除を求めた。今月日からは、同庁が委託する「インターネット・ホットラインセンター」が監視する「有害情報」の範囲を拡大。強盗の実行役を誘う書き込みなども削除要請の対象に加えた。