3 鵡川ししゃも記録的不漁 町の特産品 姿消す不安 新ふ化場完成 資源回復に期待

  • この1年 2022, 特集
  • 2022年12月17日
むかわ産シシャモは深刻な不漁に。新たなふ化場に地元の期待が高まる

  「鵡川ししゃも」のブランドで知られるむかわ町のシシャモ漁が今年、記録的な不漁となった。水揚げ量はわずか64・6キロと、記録が残る1998年以降で最少に。町は今秋、新たなふ化場を完成させたが、海の環境変化もあって資源がどこまで回復するか見通せない状況にある。町の特産品が姿を消してしまうのでは―。地元からはそんな不安の声もささやかれた。

   「これじゃ、話にならない」。シシャモ漁が始まった10月1日、早々に切り上げて鵡川漁港に戻ってきた漁業者は、深いため息をついた。漁船から運び出した籠にはわずか20匹ほどしか入っていない。過去最低だった昨季より今季はもっと少なくなるのでは―。初日から漁業者らはそうした懸念を抱いた。

   不安は的中した。漁に出てもほとんど取れない。このため、例年より3週間以上早めて10月15日に終漁。水揚げは昨季を大幅に下回る結果となった。鵡川漁業協同組合による漁獲量は近年、急激に減っている。19年は38・3トン、20年3トン、21年1・4トン。今年は100キロにも届かず、資源枯渇の危機を物語った。

   深刻な不漁は、地元商業・観光にも影響をもたらした。1キロ当たり平均単価は昨季より4000円以上高い9783円にまで跳ね上がり、品薄と仕入れ値高騰で「鵡川ししゃも」を扱う地元水産加工品店に打撃を与えた。町観光協会などが今秋予定していた「鵡川ししゃもまつり」も、来場者に提供するシシャモが確保できないため中止に追い込まれた。

   水産研究機関が不漁の要因として挙げたのは、海水温の高さだ。道立総合研究機構栽培水試(室蘭市)は「昨年夏の海水温が高かったため、稚魚の多くが死んだのでは」と推測した。稚魚は高い海水温に弱く、「昨年8~9月の胆振・日高沿岸の平均海水温は20度を超える状況が続き、それが不漁を引き起こした」との見解を示した。

   全国的にも名高い「鵡川ししゃも」の危機。町は約7億6800万円を投じて鵡川下流部に整備し、11月に稼働させた新ふ化場に希望を抱く。シシャモが遡上する鵡川から取水し、水質を良好にした養魚池でふ化させることで、資源の安定化が期待できるという。年間約1億匹(目標値)の稚魚放流が可能となり、順調に成長すれば18トン相当の漁獲が見込める。しかし、今秋、確保できた親魚は3000匹程度にとどまり、滑り出しは順調と言えない。

   町は新ふ化場を生かし「研究機関などと連携して資源回復に努めていく」とするが、地球温暖化の影響で日本近海の海水温も上昇傾向にある中、放流した稚魚が海で無事に育つかどうか心配は消えない。

   先行きに不透明感が増す中で、同漁協の小定雅之専務理事は「秋の風物詩として、まちにシシャモが出回る時期を楽しみにしている人も多い。できる限り早く資源を回復させたい」と願うばかりだ。  (石川鉄也)

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